魂のダンス

書く無用人

ぐるなる(6/27(月)〜9/8(火)の雑記)

 おなかがずうっとぐるぐる鳴る。だいたい午後から夕方にかけて鳴る。これは胃の消化作用によるぐるぐるではなく、大腸のはたらきによるぐるぐるなのだ。

 しずかなオフィスで皆が黙々と仕事をしているなか、自分のおなかがなんども鳴る。厄介なのは、稀にほぼ放屁に近い音が出てしまい、たまらなく恥ずかしい思いをすることだ。ちがうんですよ、屁じゃないんですよ、ただ腸のうごきが活発なだけであって屁じゃないんですよ、と念力で周囲のひとびとに訴えかけるも、心の声なのでもちろん届くはずがない。あれこれ言い訳の文言を考えながら残業に勤しむうちに、夜は更ける。

 こうした悩ましい生理現象をなんとかしたいものだと思い、ネットで症状を検索すると、だいたい過敏性腸症候群がヒットする。さて、なぜこの症状が起きるのかとページに目をやると、ほとんどがストレスが原因だという。そんなんどうすることもできん。

 それでも、自らの症状をなんとかして改善したい。考えられる対処法を、ここ半年間試してみた。手始めに就寝前におなかを揉むマッサージからはじまり、毎朝のヨーグルト、R−1、ビオフェルミンと口内からも摂取できる対策をとってみたものの、いまいち効果が実感できない。はてどうしたものかと悩みながら近所のスーパーを物色していると、とある商品が目にとまった。そう、ヤクルトである。

 そういえばヤクルトは、幼少期に祖母がいつも冷蔵庫にストックしていて、自分が飲む前にだいたい祖父と弟が飲みつくしていた。独特のあまったるさを久しぶりにあじわってみたいものだなと思い、籠に入れる。

 こんなわけではじまった毎朝ヤクルト生活。思いのほかわるくなく、以前よりも勤務中におなかがぐるぐる鳴る回数が減った、気がする。ありがとう、ヤクルト。案外身近なところに、解決策はあるものだ。

 そういえばおなかの調子がよくないことを他人から指摘されたのは、高校生のころに通っていた整体のおじちゃんがはじめてだったことを思い出す。自分が怪我をしたのは足だったのだけれども、

 全身をほぐしてからのほうが効くよ。

とおっちゃんは言う。肩に腕に腹にとほぐす最中、急に、

 きみ、普段からあんまりおなかの調子がよくないでしょう。

 と言った。確かにそんなによくはないと返答すると、かれはうなずきながら施術を再開し、夜寝る前でもいいからおなかをマッサージするといいよと助言してくれた。それならばやってみようかしらとセブンティーンの自分は思った。ふとおじちゃんの顔を見ると、額には玉粒の汗が生じており、ぽとッと自分のTシャツにおちた。

 昨年末、実家に帰省したとき、たまたまその整体の前を通りかかったのだが、すでに空きテナントとなっていた。ずいぶん長いあいだ店舗が入っていないようだった。

 

 こんなことを思い出したのは、柴崎友香の『百年と一日』を読んだからかもしれない。

百年と一日 (単行本)

百年と一日 (単行本)

  • 作者:柴崎 友香
  • 発売日: 2020/07/14
  • メディア: 単行本
 

 

 いつかどこかにそこにあった(かもしれない)ひとびとの生が、ここに散りばめられていました。それぞれの短編のタイトルを読むだけでもぐっと感情が動くのだが、本編を読むことでかつてあった/いまある/これから出会うものたちに対して、ますます思いはめぐる。「兄弟は仲がいいと言われて育ち、兄は勉強をするために街を出て、弟はギターを弾き始めて有名になり、兄は居酒屋のテレビで弟を見た」が特に好き。今年に入って読んだ国内小説のなかでも群を抜いて気に入っている。

 

 最近は雑記を書くことができなかった。公私ともにバタバタしていて、何かを「書く」という心持ちになかなかなれなかった。けれども、あたまのなかでぐるぐる考えていただけでは、さっと感情は消えてしまう。そんなことを書きながら考えており、やはり定期的に書かなければいけないなと思った次第だ。

 最近よかったものたちの感想も書きたいけど、まったく体力が残っていないので今回はここでおしまいにして、これからの雑記にちょくちょく書いていくかもしれない。