魂のダンス

書く無用人

アフターアワーズ(シャムキャッツ解散と聞いて)

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 2020年6月30日の火曜日。退勤後、電車のなかでSNSやニュースをチェックする。職場ではスマートフォンを見る余裕はほとんどないので、このタイミングでざっくり今日のできごとを確認する。目に飛び込んできたのは、「シャムキャッツ解散」の文字だった。まじかよ。

 

 

 シャムキャッツのことを知ったのは、たしか2014年のはじまりだった。Twitterを通して音楽の情報を得ることがおおくなり、その流れでシングルリリースされた「MODELS」を聴いて、ガツンと衝撃を受けたことをいまでも覚えている。

 


シャムキャッツ - MODELS @ OUR FAVORITE THINGS 2015

 

 ばつぐんのロックンロールチューン。絡み合うツインギターにうねるベース、はねるドラム。歌われるのは、トラック運転手の彼と会社員の彼女の日常だ。

 「MODELS」をきっかけに過去の曲も聴き漁る。「アメリカ」「なんだかやれそう」「No.5」といった楽曲に夢中になり、その流れで最新アルバム『AFTER  HOURS』も購入した。これがとんでもなくすばらしいアルバム。流れるメロディー、奏でられるストーリー。当たり前のことだが、これまで自分が住んだことのない土地にも、日々過ぎていく現実の生活が存在し、時々刻々感情の起伏を抱えて生きている。歌われるかれらの日々が、自分の感情に跳ね返り、あたたかくとげとげしくかろやかに触発させられたのだ。

 自分は当時大学2年生。授業やサークルに取り組みながら興味のあった業種でバイトしてみたりライブに足繁く通ったりといった、かつて想像していた大学生活なんてものはなかった。片田舎の大学で原付を走らせながら、ひたすらに授業と部活と準夜勤バイト、対人関係でそれなりに後悔することもあり、地方で鬱屈としていた自分には、本作で歌われるかれらの生活に共感を覚えると同時に、背中を押されるような励ましのようなものを与えられた。つまり、自分にばちばちと突き刺さったのだ。

 そして、「このまま」でいたいきもちと「ここじゃないところ」へ行ってみたいきもちがますます拮抗することとなり、あれこれ悩んでいるときにはいつもこのアルバムを聴いていた。特に大学入学当時抱いていた、卒業後は何となく地元に帰ってまいにち働くことになるのだろうという考えに疑問がめばえ、彼らの音楽が鳴らされる場、つまり関東に一度は暮らし、だいすきなものに刺激を受けながら生活をしたいというきもちは強くなっていった。

 

 

 続けてリリースされる作品も何度も何度も繰り返し聴いている。次にリリースされた『TAKE  CARE』はサヌキナオヤさんによるジャケットももちろん、封入されているイラストブックも大好きで、何度もパッケージを読んだ。全曲好きだが、夏目さんと菅原さんのツインボーカルが印象的なラストナンバー「PM 5:00」がお気に入りだ。

 


シャムキャッツ - PM5:00 @『TAKE CARE』RELEASE TOUR FINAL

 

どうしてここにいたいのか

たまにわからなくなるのさ

川沿い 遮るものもなく西陽が照りつける

あの電車に乗らなくちゃ

最近僕らはしゃべるとそんなことばかり言ってるのだ

シャムキャッツ「PM 5:00」、2015)

 

 電車なんて滅多に乗ることはなかったけれど、くりかえされる平穏な日々にふと感じる焦燥感が、「あの電車に乗らなくちゃ」というフレーズに含まれているような気がして、地方の片田舎でひとり唸りながら聴いていた。

 

 

 そしてそして、部活も落ちつき、ようやくシャムキャッツのライブを観ることができたのは、『きみの町にも雨はふるのかい?』のリリースツアーだった。それはもう感激のライブで聴きたかった曲をほとんど演奏してくれただけでなく、ラストに披露された「渚」が特に印象深い。このイントロが流れたときの高揚感はいまも残っている。終演後にはだいすきな『AFTER  HOURS』にメンバーの皆さんからサインも頂けて、これは自分にとってたいせつな宝物となっている。

 この時期前後から、Twitterを通じて同じ地域に住んでいた音楽好きの方々と交流することが増え、かれらもみんなシャムキャッツのことがだいすきだった。自分にとってシャムキャッツは、さまざまな出会いを演出してくれてもいたのだ。

 

 

 その後リリースされた作品はつねに自分のそばにあったし、ライブにも足を運んだ。「このままがいいね」「花草」「Travel  Agency」「Coyote」「完熟宣言」「おしえない!」「BIG CAR」……そんななかで、自分も本当にしたいことは何だろうかと思い続け、思い切って進路を変更。はじめてシャムキャッツを聴いたときに抱いた憧憬がまわりにまわって、いまでは彼らがライブをし続けた土地に暮らしている。

 ようやく自分が本当にしたいことが何か明確になってきたけれども、理想と現実はうまく噛み合わない。落ち込むこともあるけれど、かれらの曲で歌われる人々に思いを巡らすことで、何とかやってこれたこともある。この状況下が落ち着いたら彼らのライブも真っ先に観たいと考えていたのに、今回の解散という報せは正直かなりショックだった。

 でも、今後リリースはなくたって彼らが歌ってきたものは残るし、変わらない。やさしくて、とげがあって、奔放で爽快。鳴らした音はあらゆる場所で暮らす人々と土地に宿る。かれらの曲は引き続きわたしたちの生活に寄り添うのだ。

 


シャムキャッツ - 完熟宣言 / Siamese Cats - Kanjuku Sengen (Official Video)

 

だいたいの事はもう分かったよ

曖昧にするのも慣れたさでも

完熟宣言出せる日まで

続いていくのさ(相変わらず)

探していくのさ(ゆっくりと)

歩いていくのさ

シャムキャッツ「完熟宣言」、2018)

 

 9月にリリースされる2LPベストアルバムはぜったいに手に入れるだろうし、そういえば友人がおすすめしていた『はしけ』のLPも手に入れたいなどと考えている。こうして日々は続いていくのさ、探していくのさ、歩いていくのさ!