近所から近所に引っ越した。大きい荷物は一人の力ではどうにもならんので、業者に依頼し搬送してもらった。小さい荷物は一時期いそうろうしていた友人が置いていった荷台を拝借し、がたがたころころと運んだ。荷台の上には、本などが入った段ボール、洗濯籠に入れられ剥き出しになった掃除用品、良い雰囲気にはなるもののスイッチが電球近くにあり点灯がやや面倒臭い間接照明、奈良美智が描いたYo La Tengoの最新アルバムのポスターなどをぎっしりと敷き詰める。荷台が地面の凸凹に振動して鳴る音が案外大きくて厄介だなあと思いながらそれを転がしていると、大きな道路にさしかかる。旧宅から新居に行くためには、大通りを渡る必要があるのだ。これは当たり前の日常的な光景ですよと周囲に語りかけるように、そしてラフな格好で働くことが許されている運送業者の面構えのように信号待ちをしていると、横のおじさんが荷台に載った荷物をじろじろと見てくる。別に見られて恥ずかしいものなどひとつもないはずなのに、こうもじろじろ見られると何かやましいものが混入しているのではないかという気がし、こそばゆくなってしまう。そんなきもちに耐えきれず、運送業者風の巨人は信号が青に変わった途端、トラックのエンジン音に負けず劣らずの運送音を発しながら横断歩道を小走りで駆けて行く。
今回引越しをした理由は今年度末で一度契約が切れてしまうだとかいろいろあるのだけれども、おおきな理由としては明朝に聞こえてくる音が原因であった。
朝ぼらけ、まだ眠っていたいのに地鳴りのような音がどこかからか響いてくる。むー、むー、むー。スマホを見るとまだ4時半、一体どこのどいつだこんな音を立てているのはと思い、注意深く耳を澄ましてみると、隣人の唸り声だった。いびきなのか、目覚めの悪さからなのかわからないが、隣人はこの時間になると、むー、むー、むー、とウーファーを通した重低音を発しながら睡眠と戦い始める。そんなに起きるのが嫌なのか、なにか悪い夢でも見ているのか、とか考えているうちに、頭が覚醒してしまい睡眠は中断、うとうとしながら本来の起床時間になり目覚めは散々、こうした状況が頻繁につづくことが地味なストレスとなり、引っ越しを決断したのだった。しかし、普段すれ違ったりするときの隣人は丁寧に挨拶してくれるので、根はきっといいひとなんだと思う。隣人よ達者でな、快適な睡眠をするためにまずはロフトから降りていいベッドでも買って睡眠してみるのはいかがかでしょうか。
こうした理由であったり、隣の棟からはカップルがセックスしている音が頻繁に聞こえてきたこともあったりして、思い切って決断した今回の引っ越し。仕事の繁忙期と並行してしまいまさに休む間もなくといった具合であったが、前よりも立地がよく、広くて閑静な住宅を選ぶことができ、とりあえずは一安心している。
そんなこんなで、このブログも2020年によかった音楽のまとめのみを更新するに留まっていたが、ようやく落ち着きを取り戻したのでまた「書こう」と思うようになった。
忙しい時期には家に帰ってメシ食って引っ越しの準備をして寝るといった生活が続いていたが、その間にも開催された音楽のライブであったり、見たり聞いたりしたものなどによって、地に足をつけていく力を得ることができた。
カネコアヤノとサニーデイ・サービスのツーマンライブに、cero、Tempaley、D.A.N.のスリーマン、NOT WONK主催の「Your Name」など、見ることのできたライブはすべて素晴らしく、生で大きい音を体感することが日頃の生活にどれほどのエネルギーを得ていたのかをつくづく実感したのだった。
サニーデイ・サービス x カネコアヤノ | Sunny Day Service x Kaneko Ayano at Shibuya WWW X
【cero/D.A.N./Tempalay】SHIBUYA MUSIC SCRAMBLE presents “CUT IN”Documentary digest movie
NOT WONK / dimensions MUSIC VIDEO
そして、リリースされたNOT WONKの新譜『dimen』、パンク、ソウル、R&B、ジャズなどをシームレスに吸収しながら、聞くものを突き動かすエネルギーに満ち満ちた傑作で、何度も何度もリピートしている。聞き手をいい意味で裏切りながら期待以上の興奮を与える展開や曲ごとに変幻自在、かつ曲の特性をばつぐんに引き出すミックスは聞くたびに発見がある。そして、ラストで歌われる「I goota new rose,I got it good ,your name」のフレーズには、他者を尊ぶ視点と、ともに前に進んで行こうとする決意のようなものが感じられ、たいへん勇気づけられる作品となった。
新居の玄関横には真っ赤な山茶花が凛と咲いており、出かける前や帰宅後に眺めるのが楽しい。行き帰りの道にある住宅はどの家もしっかりと庭の手入れが行き届いており、これは何という植物なのだろうかと考えるのもよい。そんなふうに感じたのは、乗代雄介『旅する練習』を読んだからで、こうして書くことを再開したのも本作を読んだ影響にある。ゆっくりではあるが、かつての習慣にこれまで以上に向き合っていこうと考えている。
※以下は備忘録
最近は漫画ばかり読んでいる。引っ越しによって泣く泣く手放したものも多いけれど、新たに買ったものはどれも面白い。(結局総数は微減だったが、なんとか新しい棚に収まった)
コルソン・ホワイトヘッド『ニッケル・ボーイズ』はBLM運動についてさらに考えるきっかけとなった。ゆっくり少しづつ石牟礼道子『椿の海の記』を読んでいることが心にしみる。友人が短歌賞を受賞して自分のことのようにうれしい。
ドラマや映画もぼちぼちと見ている。今クールの日本のドラマは『おちょやん』、『俺の家の話』、『にじいるカルテ』、『ここは今から倫理です。』を観ている。
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音楽は相変わらずインディー多め。昨年に引き続き、アシッド・フォーク、サイケ、ブラジルを掘っていきながら、ようやくジャズも聞き始めた。
fuvk - imaginary deadlines (Full Album)
Indigo Sparke - Everything Everything (Official Music Video)
Buck Meek - Candle (Official Video)
Bruno Major - Regent's Park (Official Audio)
Puma Blue - Opiate (Official Video)
Margo Guryan - Take a picture (1968) (US, Sunshine Pop, Baroque Pop) (+Bonuses)
Mike Cooper - Raft (full album)