魂のダンス

書く無用人

「まつり」

 焼き物の匂いと甘味の匂いが、空気の熱と混じり合って満ち満ちている。5時に鳥居の横で待ち合わせをしたけれど、誰も来ない。いまは4時58分。色々な人が鳥居をくぐって境内に入る。

 たこ焼き、くじ引き、りんご飴。同じようなデザインの屋台は、店ごとにバラバラなものを売っている。まれに二軒ならんでお面屋さんがある。

 こうして待っていると、もうあいつらは来ないのではないかと思い不安になる。尿意を催してきたけれども、向かった瞬間かれらがやってきて、なんだよいないじゃん先行こうぜと言って、おいてけぼりにされることが怖くて怖くて、トイレに行けない。

 境内をたくさんの人が進んでいく。いまのところ知り合いはいないが、ここで見つかってしまうと、誰かを待っている自分の姿の恥ずかしい。もしかしたら誰も来ないのではないかという屈辱に苛まれて、往来の人間の顔が曲がって見える。

 日が徐々に暮れてきた。まだ明るいのに、屋台のランプに羽虫が一匹張り付いていた。

 かれも誰かを待っている。大体羽虫はいつも数匹、時には数十匹以上になって、集団行動しているが、かれは逸れてしまったのだろう。

 羽虫が近づいてきた。ふだんなら手で払うか叩き潰してしまうところだったが、それをじっと見ていた。羽虫はひとり、境内へ入っていく。ずんずん飛んでいく。追いかけていく。まわりのことなど気にせず追いかけていく。