新型コロナウィルスの影響で、行く予定だったライブが軒並み中止か延期になってしまいやるせなくてしようがない。The National、KIRINJI、折坂悠太、GEZAN、運良くリセールで良席を手に入れることができた空気階段の単独ライブ、コンプソンズの新作公演、テアトロコント「ミズタニーのベストセレクション」、ナカゴー、ほりぶん……挙げるときりがない。今月はずいぶんと前から楽しみにしていたことが一気に消滅、ぽっかりと胸に穴が開いた気分でまいにちを過ごしている。
状況は混沌としていて、近所のスーパーからトイレットペーパーやハンドソープが無くなるなど、全く理解できない現象も起きている。職場の近くのドラッグストアでは、開店前にいつも同じおばあちゃんふたりが、「トイレットペーパーは品切れです」の張り紙に動じることなく、律儀に並んでいる。入荷するかもわからないものに並ばなくてもだいじょうぶだから、だいじょうぶだから、いまは手洗いうがいをしっかりしておうちにいてと声をかけてあげたい。
とにもかくにも自分にできることは手洗いうがい、花粉症の鼻詰まりを勘違いされないためのマスク着用を、これまで生きてきたなかで一番に徹底して行ってはいるものの、連日の中止、延期のしらせと、増えていく感染のニュース、またなかなか落ち着かない仕事にうんざりしているのか、脳はずうっと低空飛行だ。
そんななか寺尾紗穂さんの新作には、心を救われている。詳細な感想は以下のリンクからどうぞ。
寺尾さん本人にリツイートしていただいたため、多くの方々に閲覧していただき、恥ずかしさ半分うれしさ半分だ。
この状況下でもおおくのアーティストが配信中継を行ってくれたおかげで、何とか心のバランスが取れている。Number Girl、aiko、中村佳穂、カネコアヤノ、折坂悠太、いずれも非常に素晴らしかった。
毎週欠かさず聴いている山下達郎のサンデーソングブックも支えになっている。なかでも「明るい山下達郎」というテーマのもと、過去のライブ音源をたくさん聞かせてくれたことは、本当にうれしかった。こんなときに聴く「いつか someday」ほど、胸に訴えるものはない。
ほかの音楽事情だと、U.S. Girls、Kevin Krauter、Sorry、Waxahatcheなどをよく聴いている。RYUTiSTの新曲「ナイスポーズ」もいい。何といっても柴田聡子さんが作曲しているのだ。
最近は演劇熱が高かっただけに、たくさんの公演が中止になりやるせないのだが、この期間に観た演劇はどれもすばらしかった。
まず、ゆうめい「弟兄」。演出家である池田亮さんが自身のいじめられた体験をもとにした作品だ。2017年初演で、今回が再再演となる。
特筆すべきは演劇ならではの役のスイッチングだ。前半部分では、語り手となる池田亮さん役を中村亮太さんが演じ、中学生時代の池田さんを古賀友樹さんが演じる。そして後半部分となる高校生以降では、中村さんは池田さん自身を演じ、古賀さんは高校時代に出会った同じいじめられてきた体験を持つ「弟」(ふたりは兄弟みたいだと周囲から評されたことが理由となっているネーミング)になる。役が切り替わることによって、観ているこちらは兄弟のようだと評された二人の人物像が密に結び付けられていたことを、見て取ることができる。
しかし高校卒業後、「弟」は自殺してしまう。かれの葬儀の帰り道、かつてのいじめっ子と再会する。いじめっ子がモラルに欠けた発言を繰り返すことに語り手は激昂、その後取っ組み合いになるのだが、ここで死んだはずの「弟」が現れる。BGMは「弟」が学園祭でほんとうは踊りたかった東京事変「女の子は誰でも」。舞台内現実と舞台内想像が融和し、死んだはずの「弟」がいじめっ子に制裁を加え、ジャイロボードに乗って踊り続ける。その光景をみた瞬間、涙ぐんでいた。「弟」は亡くなってしまっても、この作品のなかで生き続けている。そのはかなさとうつくしさにおおきく心を打たれた。
そして自分は中盤に「兄弟」と呼ばれたふたりがコンビニで買い食いをするなんてことのない日常の場面を思い出す。あの光景もとてもよかった。本当に見れてよかった演劇だった。
という観劇体験があり、演劇への熱は上がりっぱなしだ。
小田尚稔「是でいいのだ」も観た。震災が起きた日に、それぞれが大なり小なり問題を抱える5人のモノローグ。あのときあの場所で、人間の心にどのようなうごきがあったのかを、考えさせる重要な作品だと感じた。体験と記憶が入り混じり、舞台上の時間軸は歪だが、過去といまここを結びつけることで人間の普遍の生活が丁寧に描かれており、とてもよかった。
玉田企画「いまが、オールタイムベスト」も観た。結婚式前夜、避暑地でのドタバタ人間模様。本音と建前を行き来するコミュニケーションのおかしみと、それをバチっと演じる演者さん全員の演技がとてもよかった。
なかでも、自身の父親が再婚することに複雑な思いを抱える中学生役を演じていた玉田真也さんがすごかった。どもり気味に父親へ感情を吐露する演技には感嘆。笑いあり、思考ありの作品で、再演してくれたことに感謝である。
どれも過去の作品の再演だったのだが、絶対に新作公演も追い続けようと思った。
そして家にいることが多いことから、ラジオ熱も高い。なかでも空気階段の踊り場は、最近抜群に面白い。かが屋の加賀さん宅にもぐらさんが泊まりに行く回は、加賀さんがもぐらさんの足を嗚咽しながら洗い、(そしてそれがマイクの故障により録音されていなかった!)その後ふたりで一緒にお風呂に入る場面は、聞くだけでも面白いが、画を想像するとさらに面白い。その後のプロポーズが失敗した加賀さんのいまのすなおな思いを聞き泣いてしまうかたまりさんや、寝る前にくさい決意を加賀さんに語るもぐらさんなど、何だかこちらもウルっときてしまう展開もあり、最高だった。
この回のあとも、北野映画っぽい話のコーナーでリスナー同士の神がかった投稿が続くことも最高だ。こちらはネタバレしたくないので、ぜひラジオクラウドで聞いてもらいたい。
ふりかえると上京1年目、社会人1年目も終わろうとしている。なかなかに大変だったのだけど、何とかやってこれたのは、自分のだいすきなものごとや周囲のひとたちとのかかわりであったなとつよく思う。また、こうして書いていると、書く行為そのものが自分にとってたいせつなことなのだともつよく感じる。散々言ってきたかもしれないが、もうすこし定期的にインターネットの海に文章を放り投げる必要がある。
最近はまいにちすこしづつ樋口由紀子編著の『金曜日の川柳』を読み進めている。帯文にあるような「どうして、こんなことをわざわざ書くんだろう。」は抜群のキャッチコピー。おかしさのなかにも、心を踊らされる句がたくさんつまっていて、日々の楽しみになっている。そんななかでも自分の好きな一句を紹介したい。
楽しいにきまっているさ曲がり角
(高瀬霜石)
なんだかいまの自分や周囲の状況にややシンクロしている気がするかもしれないが、いま目の前にある曲がり角の先が楽しくなるように信じて、日々行動していきたい。