魂のダンス

書く無用人

ほぐそう、すすもう(0226-0409の雑記)

 平素の仕事がようやっと落ち着いた、やったぜ。時間もできたことだし自分がやりたいことにとことん打ち込もう!……と思っていたのだけれどすっかり気が抜けてしまい、まいにち酒を飲んでばかりいる。この雑記の更新も、切羽詰まった日々の中で唯一気持ちを整理する場というか、わたしの内奥にひそむエネルギーを吐き出す場というか、ともかく労働で疲弊した心身をほぐすため、今年に入ってからは週に一回必ず更新しようと決めていたにもかかわらず酒を飲んでばかりいる。家に帰るころには身も心もほぐれるどころかスーツをソファへ乱雑に脱ぎ捨てぼんやりと歯磨きをしながらシャワーをし最終的にはだらしなく口を開けて寝てばかりの有様なので、こんな状態ではものなど書けるはずがない。

 それにしても酒を飲むことが楽しくてしようがない。ひと昔前はひどい飲み方ばかりしていた、酔いがまわると基本的には碌なことをしておらず人様にもご迷惑をかけてばかりだった、そのことをたまに思い出しては消えたくなる、ようやっと自分がどの程度までなら周囲に悪影響を及ぼさず楽しい状態のままでいれるか、つまりアルコールの許容限度を知ることができたので、終始ほんわかした気分で酒の場を過ごすことができている。

 ここ一年くらいでよく行くようになったお店は美味しくて珍しいお酒をたくさん揃えていて、店主さんのおすすめに導かれながらこれまでに飲んだことのないお酒を飲むことが楽しくてしようがない。おしゃべりしながら一杯のお酒をゆっくりと楽しむことのできる空間というのも居心地がいい理由のひとつ。店主の趣味趣向に満ち満ちた内装も素敵だ。ここ半年くらいは労働のせいで気分が落ち込むことも多かったのだけれど、家以外に気分を和らげてくれる場所があることそのものにたいへん助けられているのだ。

 もういっこ心身がほぐれる場所といえばライブハウスである。仕事が忙しくてここ数ヶ月はほとんどライブに行けてなかったのだが、業務が落ち着いてきたおかげでやっと行きたいライブに行けるようになった。

 三月十一日にはyumboとテニスコーツのライブを見た。yumboは友人に勧められたことをきっかけにゆっくりと夢中になった仙台のバンド。2021年にリリースされたベストアルバム『間違いの実』を何度も聞いていたので、実際にライブを見る日を心待ちにしていた。おだやかであり、豊かであり、時にスリリングなバンドアンサンブルを聞きながら、小さな部屋でわたしだけに向けて演奏されているような感覚に包まれた。オーディエンスひとりひとりと対話するように、ひとつひとつの音を生み出す過程を目の当たりにしたからなのかもしれない。「鬼火」「さみしい」「失敗を抱きしめよう」「間違いの実」「悪魔の歌」などなど、セットリストの後半には代表曲でありわたしが大好きな曲を演奏してくれたので、ライブハウスの後ろの方でこっそり感極まる。

 テニスコーツのライブパフォーマンスには衝撃を受けた。打ち込みのトラックに合わせながら自由に歌うボーカルのさやさん、ゆらゆら揺れていたかと思いきや、ラップ、サックス、ギターをどこまでが事前に予定していたのかわからないタイミングで披露する植野さん、二人の身体表現により歌のもつ力が独自のダイナミズムを生み出していたライブだった。特に感激したのは「光光ランド」のパフォーマンスで、そのときに自分に生まれた感動を言葉にすることができなくて悔しいのだが、生きる指針といおうか、希望といおうか、生の肯定といおうか、とにかく二人の周囲に白い光が輝きこちらを照らし出しているようだった、間違いなく一生忘れることのできない演奏だった。

 四月六日にはBlack Country, New Roadのライブを見た。ボーカルのアイザック脱退をうけ、全曲新曲となったフジロックのパフォーマンスを配信で見て以来、かれらの音楽に夢中になっている。過去のディスコグラフィーを改めて聴き直すもやはり今の編成と音楽性のほうが好みだったりする。すでにアンセムとなっている「Up song」からはじまったライブは、メンバーそれぞれの個性と卓越した演奏技術を存分に堪能できるもので素晴らしかった。大好きな「Dancers」も聞けたし新曲3つとも常時胸がワクワクする楽曲で、新曲で構成されるスタジオアルバムが待ち遠しい。

 yumboもテニスコーツもBlack Country, New Roadも、彼らの音楽はジャンルにくくることが難しく、グループ名=ジャンルであるように感じている。今から作品を書こうとしているわたしの理想とするすがたそのものなのだ。