魂のダンス

書く無用人

みせててのひら(9/1〜9/15の雑記)

  先日健康診断に行ったところ、視力がかなり低下していた。ショックだ。最近遠くに見える看板の文字が読めなくなってきたとは感じていたが、こうも数値で示されると見えなくなったという実感が増す。見えていたものが見えなくなってしまうという、フィジカル面での衰えがこわい。

  家屋の少ない町並、見渡す限りの海と山、そして爺と婆に囲まれて生活したなかで得た抜群の視力は、都会の喧騒に耐えれるようできていなかったのだろうか。さすがに眼鏡やコンタクトレンズを買うまでは落ちていないものの、なるだけ現状の視力を維持したい。JINSZoffでPCメガネでも購入しようかと思うが、買ってしまうと単純に生活が苦しくなる。はやく安定した生活が欲しい。なぜ未だに引っ越し関連の負債に苦しめられているのか。もう9月やぞ。

 

  なかなか苦しい生活の原因を考えると、友人の結婚というめでたい行事が数件控えていることや、雀の涙の家賃補助、一度飲み出したらいつのまにか財布から札が消える性分など様々に考えられるが、結局はライブに行ったり、映画を観たり、読み切っていない本があるのに次々と買ってしまうから。でも、自分はそれがないと生きていけない。何だかうまくいっているようで、いっていないような、そんな不安定な日々の均衡をとるには、カルチャーから力をもらうほかない。

 

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  9月のはじめは、代官山UNITへblack midiの来日公演を観に行った。ライブ前の飲酒が一番好きな飲酒なのに、先に述べた健康診断前日のため、水しか飲めなくて辛い。ちっちゃいペットボトルのエヴィアンが600円とは如何。

  そんなことはともかく、ライブ自体は凄まじくて、終始口をぽかぁと開けながら観続けていた。緊張感溢れる演奏は、どこか彼らの生真面目さと変態さが現れていて、手に汗握りながら観る。そして生演奏ならではのジャムセッションは圧巻の一言。曲中ギターのジョーディーとマットがそれぞれ別のタイミングで弦が切れてしまうハプニングがあったものの、その間他のメンバーでセッションが続けられるだけでなく、弦交換さえもパフォーマンスに変えてしまう柔軟性に驚いてしまった。大好きなアルバムの曲もほとんど演奏され、嬉しい。一部楽曲で起こるモッシュピットの熱量は、あの演奏でしか起こり得ないパワーがあった。また来日して欲しい。彼らの進化をずっと追っていきたい。

  O.A.のDos Monosのライブを観るのは、今年2回目だったが、以前観たときには無かったVJをバックに、ステージを縦横無尽に駆け巡りながら言葉を繰り出す3人のパフォーマンスが格好良くてたまらなかった。VJは謎の映像や映画のワンシーンが映し出されていたが、そのなかでも石井聰亙監督の『爆裂都市』が使われていたのが印象的。彼らの楽曲を聴くときに感じるマッドな感触を、視覚からもありありと感じることができた。

 

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  その週には、渋谷WWWを中心に開催されたThe M/ALLというイベントにも足を運んだ。この面子が揃って入場料フリーとか一体どうなっているんだ。会場内には、香港のデモ運動の写真が展示されていた。遠く離れた場所で自由を手に入れるために行動を起こす同世代の姿を見て、彼らの思いにたいする想像が沸き立つ。高円寺のカレー屋・インド富士子の出店もあり、胃のコンディションもそそり立つ。

  この日はさまざまなアーティストが、それぞれの立場から発するメッセージを、受け止め続けた一日になった。色々観て回ったなかでも、やはりTHE NOVEMBERSやGEZANは本当に格好良いライブをしてくれる存在だった。

  THE NOVEMBERSのライブは、咆哮のような演奏のなかに立ち現れる耽美さがたまらない。GEZANのライブは、観る度に自分が自分でなくなってしまうくらい感情を動かされてしまう。特にマヒトさんが「生き延びるだけじゃなくて、皆が笑顔にならなければならない」という内容のMCを行ったあとは、鬼気迫る演奏だったように感じる。アンコールで披露された新曲は、彼らの優しさが詰まった一曲だった。彼らの姿勢には非常にパワフルな触発を受けているので、全感覚祭には何らかの形で参加したいと思っている。

  そして何と言ってもこの日一番記憶に残ったのは、MOMENT JOONのライブだ。日本で活動している韓国人ラッパーが放つ日本語・韓国語・英語が入り混じるリリックは、みてもいられないレイシズム、さらに大きく言えば閉塞的な状況へと進む両国間の国際的問題を、吹き飛ばしてしまうことできるほどのパワーを持ったものだった。曲中に織り込むヘイトスピーチを、ビートとリリックで糾弾していく様に惚れ惚れとする。そして彼が最後に演奏した曲は、様々な状況に苦しむひとたちの救いとなる一曲だったように思う。

 

この島のどこかで 君が手を挙げるまで

寂しくて怖いけど ずっと歌うよ

見せて手のひら

 

  彼の言葉に合わせ、観客全員が手のひらを挙げ、見せる。皆が生まれ育った環境も性別も思想も、ちょっとずつ異なっているにもかかわらず、同じ方向へ挙げられる手が、その光景がこれ以上ないくらいに美しくて。

  その後、磯部涼さんとのトークがあったのだが、満席で入れず。今回一番ショックだった出来事だ。『文藝』秋号のMOMENT JOONの自伝的小説と、磯部さんの「移民とラップ」を読み込んできたのに残念極まりない。

文藝 2019年秋季号

文藝 2019年秋季号

 

 

 

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  翌週にはけもののキーボーディストとしても活躍するトオイダイスケさんのライブにお誘いを受け、観に行った。日曜日の午後に聴くには抜群の音楽。鴇田智哉さんの俳句の朗読に合わせたパフォーマンスや、山田あずささんのヴィブラフォンとのデュオ演奏は、ここでしか聴けない体験となった。心に穏やかさが生まれてきて、帰り道は自宅からは少し離れた駅で途中下車し、散歩して帰った。

 

  それにしても9月上旬に発表された新譜には、素晴らしいものが多い。(Sandy)Alex G『House of Sugar』、Whiteney『Forever Turned Around』、People In The Box『Tabula Rasa』、Men I Trust『Oncle Jazz』、JPEGMAFIA『All My Heroes Are Cornballs』、Kindness『Something Like A War』、OGRE YOU ASSHOLE『新しい人』、lyrical school『BE KIND REWIND』、For Trancy Hyde『New Young City』、Moonchild『Little Ghost』、Frankie Cosmos『Close It Quietly』……どれも本当に素晴らしい。これでもまだ気になっているが聞けていないものがある。とんでもねぇな。中村佳穂の新曲「Rukakan Town」もとんでもねぇ。本当に音楽を聴くのが楽しいし、エネルギーを貰いまくっている日々だ。

 

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  この期間に観た映画といえば、何と言ってもクエンティン・タランティーノ監督『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が滅茶苦茶に面白かった。過去に起きた事件を、フィクションの力とその時代への尊敬と憧憬をもって、昇華していく試みに感嘆。ブラッド・ピットのクールさはもちろん、落ち目の俳優を演じたディカプリオが本当に良かった。中盤ミスを繰り返してしまう己の不甲斐なさに、楽屋で暴走する姿。その後渾身の演技をみせ、喜びに溢れる姿。一連の表情に魅力がこれでもかとスクリーンに広がる。終盤はまさかの展開となり、驚きを隠せないのだが、これはこれで自分はアリだと思った。とにかく良い映画体験になった。

   他には今泉力哉監督『退屈な日々にさようならを』を観たのだが、映画館の席に座ったとたん、体調が優れなくなってしまい、あまり集中してみることができず申し訳ない気持ちになった。中盤以降、誰かを思う気持ちが複層的に描かれる場面が印象的であったため、ソフト化後にもう一度見返す必要があるなと感じている。

 

 

いかれころ

いかれころ

 

 

 

波よ聞いてくれ(6) (アフタヌーンKC)

波よ聞いてくれ(6) (アフタヌーンKC)

 

  

夢中さ、きみに。 (ビームコミックス)

夢中さ、きみに。 (ビームコミックス)

 

 

  読んだ本は上記の通り。三国美千子『いかれころ』は、大阪のある一族にまつわる地方独特の閉塞感が、幼い少女の視点と語り手現在の視点という語りの立体感を駆使して描かれていた、魅力的な作品だった。次に三国さんがどんな小説を書くのかが気になる。あと、今更ながらカフカを読み進めているがなかなか頭に入らない。

  阿部共実『潮が巻い子が巻い』は、高校生が織りなす日常生活の煌めきが良い。登場人物がどこかこの瞬間が続かないことを察しているのもまた良い。本当に信頼できる漫画家のひとりだ。

  沙村広明波よ聞いてくれ』の最新刊を読めていなかったので、ようやく読む。相変わらずフリーダムなお喋り芸で、読んでいて楽しい。

  和山やま『夢中さ、きみに。』は、今年最も話題になる作品ではないかと思う。登場人物や彼らが考えていることが愛おしくて愛おしくて。

 

  今月頭に白米を切らしてしまったので、新たに玄米を購入した。その理由は多分、謎の身体測定にある。東京に乃木坂46のライブを観に来た先輩と、時間潰しに代々木公園を散歩したときに、フィットネスクラブのトレーナーが無料で体内年齢を測定しているので協力してくれと言われ、男二人でTANITAの体重計に乗った。何と私、体年齢が17歳らしい。これは素直に嬉しい。しかし、ほんの気持ちだけ内蔵脂肪の量が多いと言われ、ややショックだったのだろうか。それ以降炭水化物の摂取量を減らし、玄米に変えたというわけである。玄米に変えたところで、内臓脂肪が減るのかは知らんけれども、何事も雰囲気と形から入るのが大事ではないか。

  炊き始めたころはべちょべちょの玄米ご飯が出来上がってしまったが、最近は適切な水量と漬け置き時間がつかめてきて、健康玄米ライフが幕を開けた。白米も美味しいけど、玄米も独特の風味と噛み応えがあって良い。

  しかしその後『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を観た次の日、別の先輩と飲んだ際に、かなり酔ってしまった勢いと、前述の映画を観た影響で、久しぶりに自分で煙草を購入してしまった。少し臆病になって、ウィンストンの1mmだ。最近は健康志向になった、加えて習慣的な喫煙は辞めていたにもかかわらず、相変わらず意思が弱くて自分が情けない。しかも酔った際は吸えるものの、普段の生活では1mmですら、もう吸えなくなってしまった。

  台所の横には、ボックスに入った煙草がまだ十数本残っている。何だか捨てるのも勿体無くて、ずっとそこに放置してしまうのだろう。決断力が弱くてごめんな。(了)