魂のダンス

書く無用人

山と海

 はじめてのデイキャンプに選んだ場所は料金が安いわりにスペースが広く、近くに川もあった。川に足をつけると冷たい。川底の石は苔やら泥やらでヌメヌメしていて足場が安定しないので、川縁の大きな石に腰をかける。しばらくすると足のまわりに小魚が何匹も泳いでいる。小魚が自分の足をちょんちょんとつつく。くすぐったいがぎりぎり我慢できる。テレビでドクターフィッシュがたくさんいる水槽に足を浸した芸能人が、不快な表情で我慢しているのを見たことがあるが、実際つつかれてもそこまで不快じゃない。小魚には申し訳ないが、川縁を歩きたくなったので、これで失礼することにする。川縁は大きめの石と小さめの石が混在していて歩きづらいのだけれど、手でバランスをとりながら、近くの岩に手をつけながら、少しづつ前に進んでいくだけで、全身を使って歩いている充実感がある。川縁を抜けてキャンプ場に戻ると、家族連れ、ペット連れ、おひとり様などが、肉を焼いたり食べたり、寝たり、焚き火をしたり、バトミントンをしたりして、好き勝手に楽しんでいる。椅子で寝ている女性の上に、1歳くらいの子供も座っていっしょに寝ている。その横のテントを見ると、メッシュ生地の奥に、3、4歳くらいの男の子が寝ている。全裸だ。全裸の子供を銭湯以外で久しぶりにみた。保育園で全裸で遊んでいる子がいて、その子は保育士さんに怒られて無理やり服を着せられていた。実家は海に近いので、すっぽんぽんで泳いでいる子もいたような気がするが、それはテントで全裸で寝ている子を見たから、記憶ちがいかもしれない。海水浴シーズンに実家に帰ることなんてほとんどなく、夏真っ盛りのときに海を見たのはもう15年くらい前になる。そのときの詳細なんて覚えているわけがない。実家に帰るタイミングはお盆前後で、祖母がお盆前後になるとクラゲが出るから海に入らないほうがいいと言っていた、それを無視して海に入ったいとこのリョーちゃんは右ふくらはぎ全体をクラゲに刺されて、ひどいぶつぶつができていた。それを見てからお盆に海水浴をするのは辞めた。そもそも海に入るとものの数分で唇が紫になり、次第に体温が下がり、具合が悪くなるのだから、好きではなかった。山は川で長時間泳ぎさえしなければ、ごろごろしているうちに体温が上がる(よほどの悪天候でない限り)。最近買ってみたテントを張って、山で昼寝をしたら、気持ちがよかった。全裸にはならなかった。