魂のダンス

書く無用人

疲労・思考・夜の寂寥(11/11〜12/8の雑記)

 引っ越してから早くも半年になるのだが、お湯が出なくなった。なにゆえ。この問題は単純に困るので、契約しているサポートサービスを利用して修理屋さんを呼んだ。しかし、予定時間を過ぎても来ない。突然電話がかかってきて、修理屋さん曰く「道に迷ってしまいまして」。なかなかお茶目な人だなと思いながら道案内し家に出迎えると、空気階段の水川かたまりさんのトゲをなくして化粧水で浸したようなおにーちゃんだった。そんなおにーちゃんによれば、単純にガス給湯器の寿命らしい。かんべんしてくれ。

 この時期に水シャワーを浴びるのはまあまあ過酷な修行であるので、数日間は銭湯に通った。帰り道、暖まった身体から息を吐くと白かった。上京してからの冬がついに始まった感じがする。行き道の公園のベンチでスマホをいじっていた女の子も、帰り道ではいなくなっていた。寒かったのかしら。

 

 最近は平日が忙しくなってきて、手帳に付けている日記も白紙が目立つ。職場では「自分はなんでできないのか」とか「なんでこんなことしなければならないのか」と「ここはおもしろいから時間をかけたいけどそうはいかない」とか、脳内の様々な自分が群雄割拠で思考合戦を繰り広げているので、オーバーヒート寸前。というかオーバーヒートした。この期間はぼろぼろで、しょうもないミスもしてしまうため、完全に停滞夜の連続だった。

 

 幸いなことに、最近は休日に人と会う予定が多く、そこでエネルギーを貰っている。友人の結婚式、久しぶりの再会、友人が東京にやってきて泊まりに来る、誘ってもらったイベントに行く、街をぶらぶらなど、そんな余暇を過ごすうちに、精神がほぐれる。特別なものだと、荻窪の本屋さんTitleで開催されていた短詩系ユニットgucaの展示「句の景色」を観に行った。言葉、特に俳句や短歌の言葉と、視覚としての言葉(文字?)をどのように交錯させて「見せる」かが非常に刺激的で面白かった。また、写真家の植本一子さんにお会いすることもできた。新しい写真集に写されるそれぞれの人生に実直な感涙をした。

 やはり孤独な時間も大切だけど、誰かと一緒に過ごす時間も大好きだ。話すうちに友人の一面に安心したり驚かされたり、反射する自分を新たに認識できるのも良い。なんだかだいじょうぶな気がしてくる。

 

 自分と主人公がはじめての上京だからか、中川龍太郎『わたしは光をにぎっている』はたいへん興味深く観れて面白かった。人と街の生命が、瞬間瞬間に芽生える生命力のようなものが、遠巻きのカットと少ない台詞で抜群に描かれていた。静かだけど力強かった。

 

 最近リリースされた音楽だとロンドンのシンガーソングライター・Matt Maltese『KRYSTAL』も静かで力強い作品だ。ひとり夜に聞くのがよい。ほかの新作はKIRINJIやSPANK HAPPYを聞くことが多くて、あとはちょっと前のインディ・フォークやAOR、ソウルばかり聞いていた。いわゆるdigることの面白味は、一緒にレコード屋を巡る友人の影響が大きい。

 

 伊藤亜紗『記憶する身体』、ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引書』、エトガル・ケレット『銀河の果ての落とし穴』、『文藝別冊 川上未映子』を読んだりしていた。どれもたいへんおもしろい。

 この流れで改めて川上未映子さんの作品を読み返したりもする。自分がグッと惹きつけられるのは、読んでいるうちに言葉の思考の断片のようなものが次次とあふれるような本なのかもしれないと、川上さんの作品を読んで思う。

 

 あいかわらず平日はくたくたで終わることが多くて、帰る時間も遅くなってきたが、ただゴロゴロと過ごしてしまうだけでこのまま一日をシャットダウンしてしまうことがなんとも寂しくて、こうして会った人、観たもの、読んだものの影響を強く受けながら、勢いよく文章を生成していった。もうすぐ年が変わる、年間ベストリストとかも作りたいし、そろそろ自分の好きの輪郭を明瞭にしていこう。