魂のダンス

音楽、本、映画などを絡めた雑記

触れたい触れられたい

   毎週末のように会って朝まで飲み明かしている友人たちは、大学時代からの付き合いであり、盆地の片田舎から帝都に繰り出してきた同志でもある。自分も含め新卒で働いているものは現在絶賛研修中であり、このことを仲間内でチュートリアルだとか修行だとか言い換えて茶化しているのだけれども、自分は5月から始まった研修になかなか馴染めないでいる。

  研修の実質的な内容それ自体には何ら問題はなく行えているのだけれども、妙にまわりくどい手続きだったり、残されているしきたりがうっとうしくて仕様がない。

「そのやりかたは間違ってないと思うんですけど、このやりかたは何かおかしいのではないでしょうか?」この言葉を口から発してしまいたい。けれども、発してしまえば組織内、特に上層部での悪評が広まり、己の評価は地へと陥落、行き場をなくしたバカでかい犬と化してしまう。

  ーそんなことは気にするな、おかしいと思ったことはおかしいと言え。

  本当はそうしたいんだよ、そうしたいんだけど、いまバカでかい犬になる勇気はない。そして組織内の皆さんは(いまのところ)決して悪い人間ではないので、益々言いづらい。とりあえずのところはやり過ごして、いつかは体制を変える意見を発していけるようにするしかないのか。心のもどかしさは積もりに積もる、時折休憩がてら訪れる公園でのんびり風にうたれることでそれらを払拭していたが、最近は暑かったり、雨が降ったりで、望みすらも叶わぬ。

 

  とはいえこちらにきてからは自分の興味のあるものを見聞ききたりすることが自由に行えているので、何とか心のバランスを保っているのが現状である。というわけで、書くことでもバランスを維持していきたい、以下ざっと振り返り。

 

 

◯4/29〜5/5

  友人が宿泊しに来訪。彼に着いて行動する日々。なぜかZOC、リリスク、フィロソフィーのダンスといったアイドルをたくさんみることになる。それぞれ楽しめたのだが、特にフィロソフィーのダンスはファンの皆さんの熱狂も凄まじく、それに呼応するかのようにボルテージがあがるメンバーのパフォーマンスが素敵だった。日向ハルさんがソウルフル、めちゃくちゃ気持ちよさそうに歌っていたのが印象的。

  ミュージカル『シー・ラブス・ミー』も観たが、ストーリーが好みではなく、こちらはあまり印象に残らず。歌いながら踊って演技するなんて凄いという内容とは関係のない感想。ミュージカルは生で観たら、おそらく印象は変わると思う。

  逆にストーリーにグッと引き込まれたのは、Netflixで配信されている『セックス・エデュケーション』。主要登場人物たちの背景を丁寧に描いていることで、物語の奥行きが凄い。一見おバカな下ネタコメディーのようにみえるかもしれないが、こんなに心惹きつけられる作品はないぞ。シーズン2も楽しみだ。

  基本的には酒を飲んでばかりの日々だったが、ちょっとずつ読み進めていった大前栗生『私と鰐の部屋』が、ユーモアと不穏さとかなしみが同居した非常に優れた掌編集だった。作品ひとつひとつは短いのだが、その分言葉と言葉が結びつき跳ねているような感覚を強く感じるとともに、大前さんの発想力と言葉のチョイスに感嘆。

  Vampire Weekend『Father of the Bride』とBig Thief『U.F.O.F.』が素晴らしい作品で、ずっと聴き続けていた。

  この期間に元号が変わったらしいが、あまり雰囲気に乗れない。時代が切り替わるというのに、大きな問題も小さな問題も、中途半端な状態で残されたまま、お祭りのような隆盛で誤魔化そうとしているかのように感じられる。いまのところは自分の生活はそれなりに送ることができているが、万が一生活に支障をきたすような事象が理不尽な形で降りかかってきたり、また自分の身の回りの大切なひとたちに困難が生じることがあれば、今回とは意が異なる、祭りの狼煙をあげてやろうじゃないか。それまでは、自分と自分の周囲の間に繰り広げられる日々を穏やかに過ごしていきたい。

 

◯5/6〜5/12

  友人たちとはじめて「文学フリマ」に訪れた。大盛況、こんなにたくさんの人々が言葉を通して何かを伝えようとしていて、またそれを受け止めようとしている人々が同じくらいたくさんいることに、素直な感動が生まれた。

  ミワさん『やがてぬるい季節は』、phaさん『夜のこと』、『でも、こぼれた』、『ODD ZINE』を購入した。どれも面白い。特にミワさんのブログを纏めたものを読むと、圧倒的なカルチャー摂取量とそれらへの愛情が溢れていて素晴らしい、ともだちになりたい。巻末の「好きなものにまつわるいくつかの事」にヒコさんのブログ「青春ゾンビ」が挙げられていて、深く頷いてしまった。自分もこうした見たもの聴いたもの考えたことを文章に書くようになったのは、このブログの影響がある。創作物に触れて、自分のなかの何かが揺れ動いた瞬間を忘れたくない、また同じような体験をした自分ではない誰かの言葉に触れたい、そんな気持ちがあるのではないだろうか。皆さんのような着眼点や表現はなく、まだまだ言葉に悩まされてばかりだけど、この取り組みは継続していきたいと感じた日になった。

  関連してシンガーソングライターの寺尾紗穂さんが昨年刊行したエッセイ集『彗星の孤独』が、そのような感触が丁寧に掬い取られており、大変良い読書体験となった。「たよりないもの」のわたしたちは、「たよりない日々」を「調和の音」を鳴らすために生きるのだ。

  やや疲れ気味の自分に調和をもたらしてくれたのは、Enjoy Music Clubの新曲「東京で考え中」だ。ちょうどこの春から東京に越してきた自分には刺さり過ぎる。特に勤務後、電車から降りて最寄駅から家まで歩く途中に、これを聴くと涙が出てくる。

   ただ調和をもたらしてくれるのはこれ以外にも友人との飲酒がある。バーとレコ屋が併設されたお店で、佐野元春『SOMEDAY』のLPを購入した。友人は100円で松任谷由実『昨晩お会いしましょう』を購入していた。これを自分の部屋で流し男四人で、唸る唸る唸る。最終的には皆が推しの曲を流し合い、Shazamしながら寝るという珍妙だが素晴らしい瞬間が朝まで続いた。(了)

 

5/13〜5/26につづく