魂のダンス

書く無用人

これから(12/9〜1/5の雑記)

 久しぶりに歯医者に行った。住んでいる地域では特定の年齢が無料歯科検診を受けることができ、本年いっぱいが受診締切だったので年の瀬駆け込み。それにしても以前歯医者へ行ったのはいつなのか全然覚えていないくらい、長い期間行ってなかった。

 そのため歯科衛生が最悪だったらどうしようか不安を抱えて診断に向かったものの、特に異常はなく安心した。しかし下顎の親不知がみごとなまでに横に生えていて、歯科医師さんといっしょに爆笑してしまった。ちかいうちにぬきます。

 思えば歯医者は小さい頃から嫌いじゃない。嗽をする際に含む水の無機質な金属の味、勝手に水が注がれる歯医者でしか見ないあの機械、歯間の石を取り除くとがった耳掻きみたいな器具、口内という極私的な身体をおおらかにひろげることが許される空間そのもの。あの場でしかゆるされないなにかがあって、そこに身を委ねれることになぜだか安心する。

 とはいえじょじょに年を重ねてきているせいか、歯科医と歯科助手の前で間抜け顔を披露することにやや恥ずかしさを感じる。歯の中だけを見ているだろうに、こちらは鼻の中までも見られているようで、まずい髪の毛も太いけど鼻毛も太いぞこいつと思われているかもしれない、などと余計な事ばかりが頭に浮かぶ。帰りにドラッグストアで鼻毛を抜く薬剤を購入してしまった。

 

 口内の健康状態は特にかわりなかったのだが、2019年は自分を取り巻く環境面で色々な変化があったように思う。自分が変わっていくことに抵抗はないのだけれど、身体と精神は時折地盤が崩れたように弱さを露呈してしまう。その地固めをするように、そしてさまざまなスタートの〆くくりをするように、12月はいろいろなところへ行って、いろいろなものを見聴きした。そうすることで何とか生活をつづけることができたように思う。

 

 まずは念願のスピッツのライブへ。はじめての新横浜。まわりは整然としている都市感。

 スピッツのライブ本編を観て、ほんとうにスピッツは実存するんだ、というすこやかな感動に満ち満ちた。

 草野さんの年齢を感じさせないのびやかな歌声、テツヤさんのギターアルペジオの繊細さ、そして田村さんと崎山さんというリズム隊のすさまじいパワー!過去曲もたくさん披露してくれてライブ中は体幹にうれしさがみなぎる。新譜ではやはり「ありがとさん」が大好きなのだが、この曲のアウトロは永続的に演奏してもらいたいという心持ちになる。一緒に観に行った友人と、こちらこそありがとうさんというきもちになるよね、などと話しながら、横浜アリーナのゆるやかな熱狂を反芻して帰路に着いた。

 

 その次の週はスカート企画「Town Feeling」へ行った。新代田も初めて行ったが、本当に住宅街なのだなという光景が広がる。友だちを待つ時間に行った喫茶店の珈琲が美味しかった。

 トップバッターのどついたるねんのやんちゃさに熱があがる。ギターを昆虫キッズの冷牟田さんが演奏していて、こんなことあるのかよというきもちになる。途中に澤部さんがサックスで参加したり、なぜかお笑い芸人のですよ。が「あーいとぅいませーん」を言うためだけに参加したりと、この場所この時間でしか観ることのできない瞬間がたくさんだった。

 そして柴田聡子 inFIREのライブ! 今年は柴田さんの『がんばれ!メロディー』に支えられたと言っても過言ではなく、念願のライブを本年中に観ることができてうれしい。「後悔」からはじまる待ちに待ったバンドアンサンブルの熱量にわくわくがとまらない。マライア・キャリーの「All I Want for Christmas Is You」カバーも演奏され、自分にとってすてきなクリスマスプレゼントとなった。それにしてもライブで聴く「涙」はその名曲っぷりを加速させるような演奏で感動。「ワンコロメーター」のライブアレンジも「スタジアムロックのようなリフ」(スカート・澤部さん談)が原曲の奇天烈さにさらなる筋力増量といった感じで最高。

 スカートのライブも久しぶりに観ることができた。スカートもライブならではの熱量を演出することのできる素晴らしいバンドだ。「さかさまとガラクタ」はだいすきな曲で演奏してくれてうれしい。「トワイライト」はやはり名曲。音響調整のために弾き語り披露されたチャゲアス「SAY YES」も最高だった。アンコールでは柴田さんもコーラス参加し、「ストーリー」と「ストーリーテラーになりたい」を披露。まさにスペシャルな夜。

 

 ライブ納めはだいすきなHomecomings。開演前にサヌキナオヤさんの展示も観ることができた。今回の「PET MILK」のフライヤーデザインは、一枚の絵から多様に広がるものがたりがあって、過去一番に好きなものだ。まだ買えていなかった『CONFUSED‼︎』にサヌキさんのサインをいただくこともでき、ライブ開演前から気分の昂揚が天井知らず。

 そしてライブ本編。もともと特設サイトの福富さんの文章を読んでいたのもあり、一曲目に演奏された「songbirds」を聴いているうち、京都アニメーションを襲った事件にたいするホムカミのみなさんの思いが痛いほど伝わってきて、涙が出てきてしまった。この日しかみることのできないアコースティックセットや、久しぶりに復活したPavementオマージュの照明など、かれらの節目となるような素晴らしいライブだった。MCでもしばしば語られていたように、やさしさと祈りにあふれた楽曲とそれらを十二分に表現する演奏で、ライブ納めがかれらのライブで本当によかったと思う。

 

 ほかにも『お金本』(左右社)刊行イベントの穂村弘さんと町田康さんのトークイベントにも行くことができた。各々が挙げる気になった文豪のお金にまつわる文章やその考察がおもしろい。萩原朔太郎の嫌味ったらしい切れ方とかは電車内で読んで笑ってしまった箇所だったので、タイムリー。またお金にまつわるながれで町田さんが未来はお金(で安心を得る)、過去は物語(で意味をあたえる)、そして現在はだれも所有していないものでそこを我々が生きているというお話などがたいへん興味深かった。直接お二方とお話することもできてうれしい。両者とも非常にロジカルに、かつゆったりと思考しながらお話している姿が印象的で、尊敬する人物の影響を露骨に受けやすい自分が最近真似ているのはここだけの話。

 

 そしてなんといってもM−1グランプリがおもしろかった。全組笑ったというと嘘になるが、今年は本当におもしろかった。

 敗者復活戦では成熟したヌーヴォーロマンのような漫才を披露した天竺鼠や、演技力抜群のラランド、もはや愛おしさがます錦鯉など、こちらも目が離せなかった。

 本線では、惜しくも最終決戦にすすめなかったオズワルドと、進出したミルクボーイ、かまいたち、ぺこぱがお気に入りだ。特にぺこぱはボケとノリツッコまないボケの応酬がすばらしい。かれらの漫才は何回も見てしまって、年末年始友人たちと集合写真を撮るとき、自分はほとんどしゅーぺいさんのポーズを真似ている。

 

 そうそう、久しぶりに帰省というものをして、友人たちと楽しい時間を過ごすこともできた。年末年始の期間に出会った皆がそれぞれ生活面でさまざまな変化はあるようだけれども、根幹の部分はかわらず素敵なままで本当に安心するし、かれらといまも交流が続いていることがしあわせなことだと切に思う。

 とある友人が写真を撮るとき、「はいちーず」じゃなくて「世界最大のクジラは〜?」とか言い出したのにもかかわらず、その場にいた全員が「シロナガスクジラ〜」と即答したのには爆笑してしまった。またあつまりたいね。

 

 実家でだらだらと本を読んだり、テレビをながめたりもして、本日東京に帰ってきた。帰路の間、あまりはなれていく実感はなかったけれど、スーツケースの衣服から実家の洗剤のにおいが漂ってきて、一瞬空間が妙な錯覚を起こす。はなれる瞬間には特になにも思わなかったのに、においで実家を感じることになるとは思わなかった。きっと一度洗濯をしてしまうとこのにおいも消えてしまって、衣服から東京に適応していくのだろうか。こちとらまだまだ実家でゆっくりしたかったのに。

 

 とはいえ日々はつづく。明日から仕事が始まって、たぶんじょじょに忙しくなるのだろう。2020年はひそかに野望があって、こうした日記のようで日記でないものを定期的に更新することと、観たもの聴いたものに関する書き物を頻繁に更新すること、そしてなにか自分の手でも作品のようなものを作れたらよいなともおもっている。本年も健康第一でやっていきましょう。よろしくお願いします。