魂のダンス

書く無用人

聴界良好(11/4〜11/10の雑記)

 平日を生き延びるための食料を買い出ししている途中に、ワイヤレスイヤホンを落としてしまった。多分電池が切れてしまったために、首飾り感覚でプラプラさせていたのが原因であろう。首から落とした感覚はなかったのに。はあ。相変わらずところどころ気が抜けた状態で、日々を過ごしてしまっている。仕事では大きなミスはないものの、同僚の業務確認などで抜けが多い。全く何をやっているんだか。

 無念と倦怠の日々において、音楽やラジオを聴くことが生きがいであり、明日への活力である自分にとって、今回の紛失は大きな痛手だ。

 しかし、これを良い機会と思おう。切替大切。家電量販店へ繰り出し、手当たり次第にイヤホンを聴き比べた。片手に持ったウェットティッシュが半分乾燥するくらいには、時間をかけて探した。そんなわけで、今までよりも少し贅沢なものを購入した。

 当たり前のことではあるけれど、値が張るものには良い物が多い。とはいえ、だいたいの音響機器は、ある閾値を超えたあたりからは、違いがよくわからないのだけれども。

 イヤホンを変える前はややモコモコしていた音像も、変えた後はクリアかつ低音もしっかり出ることは素人耳にもわかり、聴くことそのものがますます楽しくなってくる。

 

 シャムキャッツの新しいEPを聴くことが楽しくて仕方がない。彼らの作品は、かれこれ長い間聴き続けている。待望の本EPは、遊び心と適度に気の抜けた雰囲気がたまらない。共同プロデュースに王舟を迎えた今作は、シャムキャッツのこれまでとこれからを内包しているように感じる。伸びるメロディとバンドサウンドはますます豊穣になっている。「我来了」のシンセサウンドとインディーロックサウンドの絶妙な混じり合いに、思わずほくそ笑む。細かなサウンドに良い意味での違和があって、そこがまた面白い。

 朝、半分目が覚めていない状態で聴くと、聴覚から内部が刺激され、徐々に体温が上がっていく。日々に寄り添うような彼らの音楽が大好きなんだと再確認する。

 ROTH BALT BARONの新作も良い。これまでは何故かがっつりとのめり込むことはなかったのだが、新作はとても良い作品だと思う。どうしてそう感じたのかは未だに言語化できないため、考え続けている。

 

 会社の上司からオススメされた小川哲『嘘と正典』も読み進めていた。言葉と歴史に実直な作品集だ。音楽を通貨とする島における珠玉の一曲、そして語り手の父に対する感情が精緻に描かれた「ムジカ・ムンダーナ」が特にお気に入りだ。

 

 ボー・バーナム『エイスグレード 世界でいちばんクールな私へ』を観た。インターネットが当たり前にあるいまの少年少女の感情の起伏が丁寧に描かれた作品だと思う。

 憧れる自分と現実の自分にギャップがあるケイラは、YouTubeへ悩んでいる誰かに向けた助言をアップロードしていく。映画を見ていくと、これは誰かへのアドバイスなんかじゃなく、自分に対する鼓舞のようなものだと判明してくる。この動画を、たくさんの人に見られたいが、閲覧数が少ないことに悩むケイラの姿が、いとおしい。そして映画の終盤、この動画はある男の子のもとへと届く。二人で会話するシーンの微笑ましさ、そして自分を無碍に扱った女の子の同級生へ一喝するシーンの爽快さ。

 ケイラの今後の生活がどうなるかが定かではないが、きっと悩み踠きながら、ちょっとずつ前へ進んでいくのだろうと思うと、こちらに力が与えられたような気がする。仕事を進めながらも、わからないことだらけで必死、うまくいってないようでくやしくてたまらない自分の心境ともリンクするようで、観ている間よりも観終わったあとに、この映画について考えている。