魂のダンス

書く無用人

ざわめきの理解(9/30〜10/27の雑記)

   連日の飲み会、そして地元への長距離移動という物理的負担が災いして、全く調子が出ない状態から始まった10 月。そんな時は銭湯に赴き、交互浴をして身体の調子を整えていくのが良い。あっつい湯に浸かることとつっめたい水に浸かることを繰り返していくと、脳がカパっと開けた感覚になり、疲労がドバドバ外へ放出されていく。

 疲労感開放の激流とともに身体の水分も減るため、もちろんカラッカラに喉は渇く。そんな時は帰り道にコンビニへ寄って、紙パックのピルクルを買い、飲みながら歩くのも良い。肌寒い夜に火照った身体。そこに注入される甘い乳酸菌。喉に貼りつく粘度の高さは、気持ちの向上と比例する。

 そんなこんなで体調も段々と回復に向かうものの、すぐに仕事が忙しくなってきた。一日の大半職場にいると、体調の良い悪しを考える間もないまま日々が過ぎていく。あっという間に10 月も終わりになりそうだ。最近は朝の寒さで目が覚める。夜も足首の上のあたりが全然暖まらない。このままだと一気に寒くなってきそうなのに、ティーシャーツとパンツ一丁で寝るスタイルから、上下UNIQLOスウェットで寝るスタイルへと変えるくらいしか衣替えをしていない。

 そんなわけで時間が流れるのが早くて、処理が追いつかない。それは時折夜通し飲酒に明け暮れてしまって、次の日一日無駄にしてしまう日が多いからかもしれないが、それにしても早い。ただふらっと過ごすだけでは、生きていく心地がしない。全てに耳を澄ませていると電池切れで動けなくなってしまうけれども、可能な限りは周囲を照らしてみつめていたい。

 

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 そんなことを考えたのは、渋谷で開催された全感覚祭を観に行ったからかもしれない。

 全感覚祭とは、GEZANがファシリテーターとなって開催される音楽フェスティバルだ。物凄いのは何と言っても、投げ銭式で資金が集められていること。そして今年は会場で提供されるフードがフリーだということだろう。

 しかし台風の影響で、元々予定されていた千葉開催は中止となってしまった。去年住んでいた地域で大雨災害に見舞われた身としては、被害拡大を防ぐために、この判断は正しかったと思う(それにしても気候による災害が多くて、本当に気が滅入る。自分にできる支援を考えないといけない)。

 驚くべきは、わずか数日で会場を手配し、場所を渋谷へ変えての開催に変更したことだ。チーム十三月の皆さんには頭が上がらない。

 当日の夜は友人たちと渋谷へ繰り出した。予想を超える人の数。全感覚祭目当ての人も、台風明けの鬱屈を晴らしたい酔客も、ただの通りすがりも、とにかく沢山の人で溢れかえっていた。

 行列に並び、何とかクアトロに入場でき、GEZANを観る。会場を包む高揚感が心地よい。SEのあと披露された一曲目の「DNA」で、自分は全てを持っていかれてしまった。


GEZAN / DNA (Official MUSIC Video)

 

今おれがクソむかついてるのは

最低な政治家、その類じゃなくて

誰かを傷つけないと自分でいられない君

僕らは幸せになってもいいんだよ

 

 何度聴いてもこの部分で感情のメーターが揺れまくるのだが、この日の「DNA」は格別だった。言語化できない熱量と信念が溢れる歌に触発されて、自分も周囲のオーディエンスも飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ。

 この体験を感じたかったのだ。GEZANの信念に共鳴をした市井の人々が集まり、音楽を通してゆるくつながり合う。真っ赤な照明に照らされた人間の躍動を、自分は忘れることがないと思う。

 その後はまさかの「Blue Hour」や「School Of Fuck」も披露され、流れるままにモッシュピットに突入した自分。おそらくここでカンパで貰った特製のパッチを落としてしまう。ショック。だが、手拭いはちゃんと無くさないでいたから安心だ。いまは家の御守りとして、家具の上に飾ってある。

 

 その後はWWW Xへ移動して、緩やか〜に過ごすつもりが、あまりの人の多さに入場規制で入れず。一番大きいO-eastは入れたので、以後ほとんどの時間をそこで過ごした。Tohji、KID FRESINO、GEZAN(2回目)、カレーライス、折坂悠太(合奏)といった流れだった。

 Tohjiは初めて観たが、彼にしか出せない狂気のような禍々しい雰囲気がとても印象的だった。とはいえ「みんなどこからきたの?ららぽーとイオンモール?」という客席とのやり取りや、パラパラみたいなダンス、最後はキックボードに乗って退場するなど、なかなかの茶目っ気に思わずにんまりしてしまった。

 KID FRESINOも初めて観た。本当に格好いい。クールにリリックを繰り出す姿に目を奪われる。次はバンドセットでのライブも観てみたい。

 再びGEZANを観て、友人とお腹が空いたねってことで、フリーで提供されていたカレーライスを食べに行く。スタッフの人によると、GEZANのメンバーも野菜などを朝から洗って準備をしてくれたらしい。聴覚や視覚だけでなく、味覚からもエネルギーを貰えるなんて贅沢極まりない。

 最後は折坂悠太(合奏)を観た。以前弾き語りを観たときには、歌声とガットギターの響きに心を奪われた。今回の合奏では、何よりも音の豊かさに圧倒された。リハーサルの「さびしさ」から会場はざわめき、本編においても「逢引」、「夜学」、「take 13」といった楽曲でさらに引き込む。「朝顔」では、その日観た光景や日々の生活のあれこれが思い巡ってこみ上げてきて涙ぐむ深夜4時。アンコールで披露されたbutajiと共作した新曲も素晴らしかった。


折坂悠太 - 朝顔 (Official Music Video) / Yuta Orisaka - Asagao

 

 最後にWWWへ赴くも入場規制で入れず、解散。帰り道では、祭の狂騒の余韻だけでなく、渋谷で毎夜繰り返されているであろう泥酔した人々が倒れている光景が広がっていた。「こんなんだから、普段は渋谷に来たくないなぁ」とか友人と話しながらも、特に雑多な空気が包むこの日の渋谷の朝焼けに、どこか興奮していた。

 

 

 話は変わるが、全感覚祭前後に、保苅実『ラディカル・オーラル・ヒストリー オーストラリア先住民族アボリジニの歴史実践』を読んでいた。筆者は、史実とは異なると考えられてしまうアボリジニの人々の物語りに耳を傾けることを通じて、実証主義的な歴史を否定せず、また神秘主義にするのでもなく、語り手と聞き手の身体を介すことで歴史を捉える方法を探っていく。これが本当に面白くて、読み終わったあとは本が付箋だらけになっていた。人々の周囲に広がる様々な歴史を排除や包摂によって植民地化することなく、コミュニケーションの可能性を探っていく本書は、日々生活するなかで人間だけにとどまらず、森羅万象の事物に耳を傾ける行為ことの重要性を訴えかける。

 本書自体が引用や、学会での応答、友人とのやり取り、博士論文の審査など、多様な声が収められているのだが、筆者が聞き取りを行ったグリンジの長老ミック・ランギアリの一言が強く心に残っている。

 

「世界のどこからきた者であっても、共に暮らし、共に働くべきだ。これはとても困難ではある。でも少しずつお互いを理解しあってゆけばいい」(P.260)

 

 渋谷全感覚祭の夜は、様々な人で溢れていた。自分はその全てを見聞きすることはできなかった。しかし、自分が見た光景や聞いた音に注意深く介入することができた。そこから何を考え、少しずつ理解をしていくべきか、そしてどのように行動すべきか。明日を生きる糧とコンパスを得た、そんな夜だった。

 

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 また、真利子哲也監督『宮本から君へ』も生きるエネルギーをもらった作品だった。本当に最高の作品だった。原作でいう宮本が営業マンとして悪戦苦闘する日々を描いたのは、去年放送されたドラマ版だったが、映画版は恋人である靖子との出来事が中心となって描かれる。

 宮本は呆れるくらいに不器用で、実際にこんなやついたらちょっと暑苦しくて嫌かもしれないが、その懸命な生に観れば観るほど宮本が愛おしくなってくる。

 なんと言っても宮本を演じる池松壮亮と靖子を演じる蒼井優の演技が凄まじい。とある事件をきっかけに心身ともにボロボロになった二人の言い争い、そして鍋で煮た南瓜をおかずに白米に喰らいつくシーンは圧巻だ。ラストシーンで宮本が叫ぶ「生きているやつはみんな強えんだ!」の言葉は、とんでもないくらい力強くて、いまも身体に残っている。観終わったあとはドッとエネルギーをもっていかれていることに気づくが、映画館を出たあとは足元からパワーが漲ってくる。暫定今年ベスト映画だ!去年はドラマ版主題歌のエレファントカシマシ「Easy Go」が就活中のテーマソングだったが、いまは宮本浩次「Do you  remember?」が自分を奮い立たせる一曲になっている。


宮本浩次-Do you remember?

 

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 そんなわけで音楽といえばエレファントカシマシと、(Sandy)Alex G『House Of Sugar』、Big Thief『Two Hands』を繰り返し繰り返し聴く日々。どちらもレコードを手に入れることができた。


(Sandy) Alex G - Southern Sky (Official Video)


Big Thief - Forgotten Eyes (Official Audio)

 特にBIg Thiefの新作がすごい。ボーカルのエイドリアンの歌声の繊細さに耳を奪われ、時に感情を爆発するような表現に震える。そして彩る各楽器の鳴りも素晴らしい。喜びと悲しみが詰まったアルバムで、こちらも暫定今年ベストアルバムになりそう。

 


スピッツ / ありがとさん

 あとはスピッツの新作『みっけ』も聴いた。サブスクも解禁され、Twitterのタイムラインがお祭りみたいになって楽しかった。新譜は何と言っても「ありがとさん」が好きだが、「YM71D」も素晴らしい。ツアーも当選したので、ようやく生でスピッツを観れるのが今から楽しみだ。

 


電話【PV】 レミオロメン

 レミオロメンもサブスク解禁されていたことに気づいた。『朝顔』というアルバムを中学生のときによく聴いてて、特に「電話」という曲が大好きだったことを思い出した。当時は部活動の決まりで丸刈りだった。丸刈り少年が、ピロウズを中心にバンド音楽ばかり聞いてた話を会社のボスにするとまあまあ受ける。

 

 そして好きなものが復活した月でもあった。『帰ってきた時効警察』と『まだ結婚できない男』が放送開始されて嬉しさが宙に舞う。今回も毎回毎回が面白い。他には『スカーレット』、『同期のサクラ』、『G線上のあなたと私』を毎週楽しみに観ている。

 

読書実録

読書実録

 
献灯使 (講談社文庫)

献灯使 (講談社文庫)

 
雪の練習生 (新潮文庫)

雪の練習生 (新潮文庫)

 
ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

 

 

 また保坂和志『読書実録』を読んで、本の印象的な文章を書き写すことにもチャレンジし始めた。他には多和田葉子の作品を読み返したり、宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』を読んで学びそのものについて考えたりもした。

 

 最近会社の先輩と映画の話をすることが多い。おすすめされた作品は配信されているものもあれば、ないものも多いので、改めてTSUTAYAの会員となった。しかしレンタルは折角だからたくさん観ようと籠にオラオラとDVDを入れるものの、いざ家に帰ると掃除、炊事、洗濯などに追われ、毎回1作品は観ないまま返してしまう。時々どうしても家で飲みたくなって、アルコールをお供に映画鑑賞するものの、どんなに面白い作品でも完全にリラックスモードに移行した自分はつい寝落ちしてしまう。管理能力の無さを露呈するのは家だけにしたいなと思うものの、寝落ちしたとある翌日の仕事では凡ミスを連発してしまいました。あちゃちゃちゃちゃ。(了)