魂のダンス

書く無用人

ばらばら

  数多くの熱量に触れると、瞬時に生まれる思考が血管をめぐり、身体の内外にほとばしる。最近はそのような体験をすることが多い。

  自分とは何もかも違う人たちと毎日たくさん会って、共通の回路が生成して良い思いをすることもあれば、互いに意に沿わない状態となって蟠りが生じることもある。だけどそれら全てが自らを形成する一部分となる。嬉しい思いをした経験も、ムカついてムカついてしょうがない経験も、そうじゃない経験も含めて、今の身体と思考を持つ自分がいる。

  そんな日々のなかで、身体や思考が合致しないけれども、同じような方角を向いているひとと出会うと、旅の仲間が増えたみたいで嬉しい。東京に出てきてから、これまでに自分が興味のあった物事へ足を運ぶことが多いが、最近はこのような高揚感が一種の快楽となり、空いている時間はそこそこアクティブになっている気がする。

 

 

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  そんなことを考えた発端は、6月28日に恵比寿リキッドルームで行われた「BOY 10th Anniversary KID vol.10」を観に行ったから。身体中を音と興奮が駆け巡った経験となったんです。会場内をぶらぶらしていると、各媒体で見たことのあるあんな人やこんな人が自分と同じように歩いていて驚く。来ている人が様々な表情で会場の雰囲気を楽しんでいるようで面白い。

  そのなかでじっくり観ることのできたアクトは、THE NOVEMBERS、ニトロデイ、the hatch、口ロロ、GEZAN、Dos Monos、yahyel、TENDOJI。まさにオルタナティブの最前線。全てのアクトが最高に格好良いライブだった。

  特にGEZANのライブが個人的に最も心をつかまれた。1曲目の新曲でカルロスさんが鳴らすディジュリドゥの低音が内臓を揺らす、呼応するマヒトさんの叫び、イーグルさんのギター、ロスカルさんのドラム。2曲目の「忘炎」で興奮が満潮に達し、3曲目の「wasted youth」で感情が決壊してしまった。新曲も民族音楽の要素が印象的で、早く音源が聞きたくてたまらない。「一番ハードな曲をやります」という宣言で始められたラストの「DNA」では、やさしさに包まれ多幸を十分に感じることができた。

  衝動のまま久しぶりに飛び込んだモッシュピットは、いままで経験したものとは匂いがちがっていて、基盤は共通しているようだけどみんなどこか違う、そんな感じがしたのだ。

 

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  興奮冷めやらぬ翌週、GEZANのドキュメンタリー映画『Tribe Called Discord』を観に行った。印象的なのは、彼らがアメリカツアーで出会う様々な人々の姿だ。スケートパークを設立した人々や、LGBTのコミュニティを運営する人々、そしてネイティブアメリカンの人々。これまでの経歴も違えば、思想も違う人々の前でライブをし、自分たちではどうすることもできない人種差別という問題に直面する。そして音楽でいかに表現するのかを思い悩みながら、想像力を働かせて行動していくGEZANのメンバーの姿に、鑑賞後はより一層惹かれるドキュメンタリーだ。

  この映画には2018年の全感覚祭の様子も映されており、このなかでTHE NOVEMBERSの小林さんが、みんなバラバラだけど同じ場所で同じ音楽を聴いて楽しんでいるという旨の発言をしており、自分の先日リキッドルームにおける体験とどこかつながる気がするなと思いながら、映画全体にあるエネルギーを体感していた。

 

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  そして小林さんと似ている発言を、その後NOT WONKのライブでボーカルの加藤さんの口から聞くこととなるのはただの偶然じゃない。いま好んで聴いているアーティストたちの思考やアティチュードはゆるくつながっているのだと、ひとり頷く。最新アルバムは本当に素晴らしくて、ライブでいかに演奏されるか楽しみにしていたが、生演奏でしか感じることのできない緩急やエネルギーが炸裂していて、アンコールでは飛び跳ねながら巨体を駆動させました。

  踊ってばかりの国も良いライブを披露してくれ、特に「BOY」を聴けたのが本当に嬉しかった。長い尺の曲を演奏する際のボルテージに強く惹かれたため、彼らのロングセットも観に行かなきゃだ。

 

  これらライブに来ていた人、それぞれにそれぞれの人生があって、考えていることも違うのだろうけれど、皆が同じ音楽を聴いて感情を揺さぶられていること、その熱量の尊さに最近ようやく意識を向けることができている。もちろんそれは尊敬する音楽家たちの表現に触れたおかげに違いない。普段の生活でも、人と出会うその瞬間に土台のようなものが出来上がって、その上で手を握り合えることも、そうじゃないことも肯定していきたい、そんなことを考えた曇り空が続く夏。(了)