魂のダンス

書く無用人

筋肉痛と柔軟性

  筋トレを再開した。本格的に運動に励んでいたときは筋トレが嫌で嫌でしょうがなかったのだが、いまは汗を流すことに快楽を覚える。かつてのメニューはベンチプレス、スクワット、デッドリフト……やっている最中はなかやまきんに君よろしく、「あーっ!」と叫びながら取り組むことで苦痛を可能な限り軽減させようとしていたが、筋肉痛によって行っていたバスケットボールのパフォーマンスに多大な影響が及んでしまい、落ち込んでしまうことがあった。

  「今日調子悪いね」チームメイトが言う。いや、全然体調も悪くないし、いつも通りのはずなのだが。どうやら前日の筋トレのお陰で、身体の動きに僅かな違和が生じているようだった。そんなわけで、せっかくやるからには試合にもきちんと出たい、出たときには色々なものを背負っているので役割を十分に果たさなければならないという心持の自分は、可能な限り筋肉痛を最小限に抑えるため、できーる限り筋トレを行わないように逃避し、先輩同期後輩から半笑いされていたのである。

  ところが、本格的な運動を辞めてかれこれ2年が経つのだが、このところ急に運動欲が湧いてくる。ひとまず六畳ワンルームで、己の巨体はまずは簡単なものから取り組もうと腕立て伏せ、上体起こし、スクワットに励む。翌日目が覚めると胸部、腹部、肢部の動きに違和感が生じているが、以前のような不快感はなく、むしろ心地が良い。きっと本業のプレーを行う必要がなく、そこで生じる責任や義務といった感情を気にしなくても良いからなのだろう。

  先日は友人に誘われ、2年ぶりにバスケットボールを行った。経験者も初心者も、皆が教えあいながら和気藹々と運動を楽しみましょうというコンセプトの会合。以前は毎日毎日行っていて、半分飽き飽きしていたし、もうバスケはやり尽くしたと思っていたため、このような長いブランクを生むことになったわけだが、久しぶり行うとこれがまた楽しい。以前のように絶対に負けることができないという競争原理主義がないことが、楽しめている要因のひとつなのだろうか。ただ身体を動かすことの享楽が、いまは自分の内奥にある。

  もう少し本格的にやろうかなと思った自分は東京で暮らす大学時代の部活の同期に「どこかでバスケができるところない?」とラインを送る。二つ返事で行う場所と参加快諾の連絡が返ってくる。また楽しみが増えた。死ぬわけにはいかない。

 

 


カネコアヤノ - 愛のままを

 

  そんな日々のなか、相変わらず音楽は自分の生活に力を与えるエネルギー源であり、最近のリリースだとカネコアヤノのニューシングル「愛のままを/セゾン」が素晴らしくて毎朝聴いている。日常のなかで眼に映る風景、また日々の感情の動きを丁寧に、そして力強く歌うカネコさんの声。それにパワフルさと繊細さを兼ね備えたバンドメンバーの演奏が色をつけていく。

 

みんなには恥ずかしくて言えはしないけど

お守りみたいな言葉があって

できるだけわかりやすく返すね

胸の奥の燃える思いを

 

(中略)

 

美味しいものを食べな  できる限り遊びな  恋をしな

結いた髪の毛が乱れるまでいけ

(「愛のままを」より)

 

  カネコさんの歌全体を象徴しているような宣言が、サビで高らかに歌われる。個々の内にある熱を帯びた大事な言葉を、交流しながら分け与えるような贈与と扶助の精神が尊い。後半における己へ、そして聴き手へ訴えかけるようなおまじないの言葉は、「結いた髪の毛」という描写へと転換され、全速力で駆け抜けていくひとりの人間の姿が目に浮かぶ優れたフレーズだ。「セゾン」もどこか懐かしみのあるサウンドと、「4月も終わる」というフレーズが印象的でこちらも良い。

  タワーレコード新宿店で行われたインストアライブにも行ってきた。多くの支持を得ているのが窺える、フロアに収まりきらないほどのたくさんの聴衆。カネコアヤノバンドは、ライブになるとリミッターを解除して、爆発していくようなカタルシスが魅力的だ。嬉しかったのはやっと「カウボーイ」をライブで聴けたこと。終わったときにカネコさんが「あざっしたぁ。あばよ!」と口にして退場したのだが、「あばよ!」と口にする人を柳沢慎吾以外に初めて観たので笑ってしまった。素晴らしいライブだったので、自分にもチケット運がおりてこないかしら(ここのところ外れてばかり)。

  一緒に観に行った後輩とはカネコさんのライブの感想や近況報告会も兼ねて、中華料理を食した。「ダサい人間にはなりたくないなぁ」と二人揃って口にする。「とがってる  かなりね  わかるだろ」の状況になるまで、そしてなってからもそれを維持していくために、心の奥底の言葉にならない思いをずっと抱きしめていきたい。

 

  また同じ会社にいる大学時代の先輩と久しぶりの再会を果たしたことも嬉しい出来事。様々な話題に尽きない夜だったが、音楽関係でいうと彼からおススメしてもらった90年代LAベースのJurassic 5が格好良くてかなり聴いている。その他の新譜だと、Homecomings「Cake」、RIRI、KEIJU、小袋成彬「Summer time」、サンパウロのバンド・O Terno「Volta e Meira」(なんと坂本慎太郎が参加)、Loyle Carner『Not Waving,But Drowning』、Bibio『Ribbons』、Lizzo『Cuz I Love You』など。ラッキーオールドサンやBeyoncéの新作はまだ聴けてないので、早く聴かねばならない。コーチェラの配信で観たWallowsも良い。あと最近はソウル・ミュージックのDigに力を入れようと考えている。これを見た人は、自分にソウルを気軽にご指導ご鞭撻をよろしく願いたい。

 

  また最近は古井由吉の自選短編集を読んでいる。これがまた面白い。自分は内部に潜む思考を言葉にしていくものに強く惹かれるのかもしれない。まだ途中なので感想は後日改めて。

 

  さて、冒頭でも言及したように、二日おきに六畳ワンルームでの筋トレを継続しながら、加えて日々のコミュニケーションにおいても力強さと柔軟性の上に成り立つ器の大きい人間となるべく、試行錯誤を行っている。まずは一番話す機会の多い同期と交流する際に心がけていこう。帰路の電車内で、「バーでひとり飲む姿がカッコいい女になりたい」「シガーが似合う女になりたい」という同期に対して、「良いねぇ。でも酒とか煙草は身体に害あるし、そういう姿に抵抗がある男性もいるけど、オレは格好良いと思う」みたいな返答を行ったところ、「なんかどっちつかずで癪な返答だなあ」と言われてしまった。強くしなやかで寛大たるはずが、肯定とも否定ともつかない曖昧な立場の捻くれた私になってしまった。またしても反省の日々である。(了)