魂のダンス

音楽、本、映画などを絡めた雑記

Sexy Man

  就活中の元バイト先の後輩が、面接のためにうちへ泊まりに来た。自分のもとを訪れてくれたことへの嬉しさ、そして面接へのエネルギーにしてほしいという思いから、夜はふたりで「キッチン男の晩ごはん」へ行った。インパクト抜群のボリュームと濃い目の味付けで、景気づけにはピッタリのパワーフードである。「頭の悪そうなメシですね」だとか、有線で流れるあいみょんを耳にして「最近どこに行ってもあいみょん流れているから、腹たつんですよ」と発する後輩は相変わらずシニカルでクールなのだが(対照的に「人気だからねぇ。聴いてみると良い曲多いよ」と返す半端者は自分である)、やはり今後の生活がかかる就職活動ともなると不安なことも多いらしく、ぺーぺーではあるが一応会社員として暮らすの自分への相談事などを含め、色々と話した。久しぶりとは言ってもバイトの送別会から一ヶ月経ったか経っていないかくらいの時間の幅ではあるが、見知った顔、加えて音楽を中心に話ができる人と会うと、高揚感が生まれてしまい、二人でお店を出たあとからうちで寝るまで最近のレコメンドをお互いに聴かせ合うなどしながら、話続けてしまった。

  会社に向かう途中で後輩と別れ、特にトラブルもなく研修をこなし帰宅したところ、後輩からの吉報が届く。興奮している彼の声を聞いていると、こちらも歓喜の気持ちが生まれるのは何とも不思議なことだ。彼が来年以降こちらへやってくることは確定し、その頃には自分にそれなりの稼ぎもあるはずだから、彼にあいみょんを聴かせながら「キッチン男の晩ごはん」を三人前とビールを五杯ご馳走してあげたい。

 

 


シャムキャッツ - 完熟宣言 / Siamese Cats - Kanjuku Sengen (Official Video)

  ついにLP化されたシャムキャッツ『Virgin Graffiti』を購入することができ、改めて聴くと彼らの新たなマスターピースであることに間違いない一枚だと再認識する。やはり序盤の「逃亡前夜」、「もういいよ」、「完熟宣言」、「She's Gone」の流れは至高である。そしてレコードで聴くと、彼らの歌とサウンドの暖かさや甘酸っぱさが倍増して押し寄せてくるようで、何とも心地良い。もっと体感するためにも、ワンルームで十分に堪能できるより良い音響機器を購入しなければならないため、まだまだ仕事は辞めるわけにはいかない(辞めたいわけではなく、今のところそれなりに楽しめている)。

 


Hei Tanaka / やみよのさくせい【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

 

  新作では、音楽はやはり楽しいものでなくちゃと感心させられたのが、Hei Tanakaの『ぼ〜ん』。たとえばお祭りの時、様々な趣向を凝らした屋台が参道にずらっと列挙している。その雑多さは祭日特有の興奮とエネルギーをもたらすのだが、ふと脇道に逸れると神聖な場所特有の奇妙な静けさが同居している。個人的に本作はこうした情景に近い印象を感じた。ラストナンバー「アイムジャクソン」でこの世を去ったものたちへの憧憬と、生まれてくる子どもに対する情が歌われていることも、こうした感触を引き起こした理由のひとつだ。彼がSAKEROCKトクマルシューゴで奏でてきた演奏やソロワーク、それらを通じて脈々と流れ継がれてきたサウンドが六人のアンサンブルによって全編にわたって繰り広げられている。ここ最近よく聴いた一枚であるし、多分これからもずっと聴くだろう。

  ゴリゴリの低音とクールさが同居するBillie Eilish『When We All Fall Asleep,Where Do We Go?』も頻繁に聴いた。他には折坂悠太の新曲や、Weyes Blood『Titanic Rising』を再生することが多かったように感じている。また、ジャケ買いした中古レコードで、Mandrillのファーストもかっこよかった。アーカイブ・ディグではファンクに加え、ソウル、ブルース、AOR等を色々聴いてみたい所存である。

 

迷路のなかで (講談社文芸文庫)

迷路のなかで (講談社文芸文庫)

 

 

書きあぐねている人のための小説入門 (中公文庫)

書きあぐねている人のための小説入門 (中公文庫)

 

 

  通勤の時間や空き時間は、アラン・ロブ=グリエ『迷路のなかで』を読み進めていた。

 

つるつるした冷たい材質の上に、文字が彫り込んであるのだが、小さすぎて、兵士はただの一語も読みとることができない。そのとき彼は、ドアが半開きになっているのに気がつく。ドア、廊下、ドア、玄関の間、ドア。(中略)あかりのともっている部屋。ベッド。洋箪笥。暖炉。引出し机。その左の隅に電気スタンドが置いてあり、笠が天井に白い円を描いている。いや、そうじゃない。洋箪笥の上のほうに、黒い木の額縁にはいった一枚の版画が掛けてある……いや、ちがう。ちがう。ちがう。(平岡篤頼訳、講談社文芸文庫

、P.93)

 

空間の叙述と「ライヘンフェルスの敗戦」と題された絵画、幻覚的なイメージへの言及から広がる、ひとりの敗戦兵の彷徨う姿。断続的に反復される像が積み重なり、題名よろしく、一行一行を読み進めていくたびに、こちらも迷路のなかに引き摺りこまれていくようであるが、言葉を追うごとに不思議と快楽が立ち上がる。この訳の分からなさに言葉を嵌めることなどできない。書かれる言葉を反芻しながら、語りに身を任す他ないのである。ロブ=グリエの映画作品をそういえばきちんと鑑賞したことがなかったなと思ったこと、そして第二次世界大戦後の1950年代から1960年代におけるフランスのヌーヴォー・ロマンの流れについて諸事情により興味を持ったことから、まずは手に取った作品ではあるが、次も彼の小説作品を読み進めてみようと思う。

  また保坂和志の『書きあぐねている人のための小説入門』も読み終えた。自分は保坂作品のファンであり、以前『小説の自由』を読んで大きな感銘を受けたので、今度はこちらも読んでみようという魂胆である。「小説とは本質的に「読む時間」、現在進行形の「読む時間」の中にしかない」という小説観を基に、読むことでその前と自分が生まれ変わる思考の広がりがあり、また運動性を持った言葉を書くことで日常に使われているそれらに新たな力を与える試みであるといった氏の考えには頷くところが多い。

 

  小説は、ふだん使っている言葉の中に違った意味やリズムを見つけ出すことで成り立っている。そして、そうやって小説のなかで使われた言葉は、もう一度ふだんの言葉に力を与えることができる。小説に限らず芸術表現というものは、通常の言葉や認識を出発点としつつも、そこに別の様相を見つけ出していく行為なのだ。(P.199)

 

この引用部分からわかるように、氏の思考は芸術表現全般へとも広がる。これを読んで、もちろん普段読んでいる小説だけでなく、映画や音楽に関する受容の仕方にも今一度考えを巡らすきっかけになった。別に小説を書こうとは思っていなくても、己の考えをさらに拡張していくには良い読書体験となる本書はおススメである。

 

  会社の飲み会などで、変に気を使うイベントも多かったことから、金銭的余裕はそこまでないにも関わらず、ここは一丁リフレッシュと、土曜日にはOGRE YOU ASSHOLE企画「DELAY 2019」、ゲストはニュージーランド出身のシンガー・Connan Mockasinを観るため、代官山UNITへ足を運んだ。

  ミツメの川辺さんのイカしたDJをShazamしているうちに、トップバッターのConnan Mockasinが登場。昨年リリースされたアルバム『Jassbusters』は高校教師と生徒の恋愛をテーマにした何とも変態チックなもので最高なわけだが、ステージ上での彼は垣間見せる狂気性に加え、裏声を駆使した歌声は生で聴くとより美しく、振る舞いはなんともチャーミングであった。穏やかに揺蕩うリズムとメロディーにずっと身を寄せていたい。「Sexy Man」や「I'm the Man,That Will Find You」といった大好きな曲も披露されて嬉しい。後半ではドラマーとの掛け合いのなかでBPMが加速していく演奏も素敵だった。しかし、そんな彼は「セナカイタイ……」とか言いながら腰にコルセットを装着していた。それでも漂うセクシーさと格好良さはズルい、ズルすぎる。

  そしてオウガ。圧巻、圧巻の一言であった。冒頭三曲は新曲が披露され、特に三曲目に披露されたミニマル、かつダンサンブルなビートが印象的。四つ打ちのリズムを基盤に、修行のようにストイックな演奏を爆発寸前でコントロールする彼らの演奏に、代官山UNITは徐々に熱を帯び高まっていく。メンバーの後方から照らされるライトは不穏さを掻き立てながらも、10分以上の演奏はその長さをひとつも感じさせず、混沌とした空間のなか音楽とともに身体を揺らす瞬間が永遠に続いてくれないか。そんなことを感じた圧倒的な新曲であった。その後の「ロープ」、「フラッグ」、「見えないルール」のリアレンジで、身体の内奥から動きが湧き上がってくる。ラストの「動物的/人間的」で美しいエンドロールが果たされ、これは一時間じゃ足りない、ワンマンライブも是非行きたい、新作も楽しみでしようがない。そう思ったライブであった。

 

  そんなこんなな日々を過ごしていた先日の朝、家を出ようと玄関のドアーを開けると、桜の花びらがそこかしこに落ちていた。思えばこれまで住んできた住居の近くには桜の木が植えてあったことはなかったと思い返しながら、東京にはやけに桜が多く植えてあるな、などと思った。やたらと目につく桃色の花弁の、その豪快な咲きっぷりにややオラついている感があるな東京の桜は!とか思いながら、点々に落ちている花びらを見つめていると、フラつきながらもそれなりにこの土地で時間が経過していること、暮らしていることの実感が生じてくる。一眼で印象深いものに心惹かれるよりも、その変化であったり、移ろいに眼を向けたいものだなあ。と思いながら現前にうつるのは、馴染んでいない革靴によって、段々と黒ずんでゆく踵の靴擦れの変化。傷が早急に癒え、正しい足取りで道を歩けるように回復することを願う毎日である。(了)