もう蕎麦しか愛せない、7月(しかし学食の冷し蕎麦は、まるでゴム)。

 

 7月の初めはというと学業関係でちょっとしたイベントが間近に迫っており、その準備に追われていました。とはいえ準備期間後半は「あっぎゃあ。あっぎゃあ。」と吠え、これ以上無い知恵を働かせても何んにも出てこない自らの空虚さを痛感し、それを感じれば感じるほど半ば諦めの思いがじわじわと強くなる。挙句の果ては、研究室に資料を散らかしたまま帰宅後即不貞寝。

 そんなどうしようもない日々のなか、ボクの住む地域を豪雨が襲いました。準備をしていた学業の予定も中止となり、作っていた資料はお蔵入りになってしまう。とはいえこうした個人の事情などどうでもよく、近隣地域の甚大な被害に何とも言えない思いになりました。幸いなことに居住区周辺は大きな被害はありませんでしたが(バイト先の通勤ルートが一時的に水没して迂回することになったぐらいか)、少し離れた場所では人命に関わる被害がありました。広義的な意味合いでは被害を受けた地域の住民でありながら、特に大きな被害を受けていない自分と、すぐそばでは苦しい生活を強いられている人々のギャップにヤキモキしてしまう。テレビや新聞での報道を見ると、余計にそんな思いが強くなる。

 被害の大きい地域にも訪れる機会がありました。家屋内に流れ込む土砂の量もさることながら、その影響で道路がぐしゃぐしゃに地割れを起こしていた。このような被害の形もあるのかとただただ愕然。豪雨とは打って変わって続く酷暑のもと、この地域に住む人々がいわゆる「ふつうの生活」に戻るのはいつになるのだろうか、とナイーヴになってしまう。そして、わずか数十キロメートルの違いで、こんなにも被害が異なるとは……自然災害の過酷さに直面した月でもありました。

 とはいえ徐々に交通・物流等も回復してきており、少しは落ち着きを見せつつあります。まだまだ被害の跡は十分に復活してはいませんが、いびつで複雑な感情も、7月に出会った音楽や文芸、漫画などに大きな力を貰うことができ、やわらかになりつつある。って感じです。では、備忘録的な整理をば。

 

 今月リリースされた作品でよく聴いたものは、蓮沼執太フィル『アントロポセン』、三浦大知『球体』、BIM『The Beam』、Buddy『Harlan & Alondora』、CRCK/LCKS『Double Lift』、D.A.N.『Sonatine』、Dirty ProjectorsLamp Lit Prose』、The Internet『Hive Mind』、Negicco『MY COLOR』、Tanukichan『Sundays』です。基本的にこれらをリピートして、日々を過ごす。

 ベストアルバムとシングルのリリースを経て、届けられたNegicco四枚目のスタジオアルバムが素晴らしい。この新作を聴くと多幸感に包まれるといいますか、その要因として考えられるのが様々なフィールドから楽曲を提供するクリエイター陣の愛情と、それを昇華して表現していく3人の声、歌ではないかと思います。冒頭のKeishi Tanaka作曲「Never Ending Story」から「キミはドリーム」で、おおっと唸りをあげてしまった。この流れは否応なしにテンションが上がってしまう。思い出野郎Aチーム提供曲の「スマホに写らない」(先月リリースされたリリスクのアルバムでも「オレンジ」という最高な曲を提供してました)、シャムキャッツ提供曲「She's Gone」も好きです。「She's Gone」曲間の、「一人のお弁当全然美味しくないから嫌になるよ!」と歌うMeguさんにやられて、意識が天に昇り、形となり、舞を踊ってしまいました。

キミはドリーム

キミはドリーム

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  そしてNegiccoのライブ演奏や本作「そして物語は行く」の編曲を担当したCRCK/LCKSの新作も良い。緻密な演奏とそれを忘れてしまうようなポップさが絶妙です。そして本作は「O.K.」「たとえ・ばさ」の2曲を俳人佐藤文香さんが、「病室でハミング」を詩人の文月悠光さんが担当。どちらも最近著作(佐藤さんの方は『君に目があり見開かれ』、編集を行っている俳句アンソロジー天の川銀河発電所』。文月さんはエッセイ集『臆病な詩人、街へ出る。』)を読んで非常に感銘を受けた方々だったので、これはボク的にバチっときたコラボレーションでした。個人的には「たとえ・ばさ」は、誰もが初聴で「⁉」となるフレーズも紛れ込みながら、優しく柔らかな音に魅了されてしまいます。それにしても小田朋美さんはceroといいSPANK HAPPYといいアグレッシブに活躍されてて、すげえや。


CRCK/LCKS(クラックラックス)「No Goodbye」 MV

 蓮沼執太フィルの新作は何といっても音使いの豊かさに圧巻させられます。蓮沼さん、木下美紗都さんの声と環ROYさんのラップが交じり合うメロディーにも引き込まれる。ボク自身滅茶苦茶好きなソロ作『メロディーズ』から、「TIME」、「ニュー」の2曲がリアレンジされており、こちらも良い。ソロ作を聴いたときから感じていましたが、詩作のモチーフとして「光」が重要な言葉となっているなと考えています。思えば音楽を聴く行為により、人の内部に存在する感情は働きをかけられ、自覚の有無に関わらず少なからず変化をしているでしょう。音楽を聴く以前と以後では、知らないうちに見える世界や思考は別の方向へ向かっているのかもしれない。こうしたぼんやりとしているボクの思い付きは、冒頭曲「Anthropocene - intro」で「光る場所の裏側にある世界への気付き」を歌い出し本作が始まっていることから、思ったり考えたりしたことです。


蓮沼執太フィル / Meeting Place【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

 待ちに待ったD.A.N.の2ndが何ともグルーヴィ。ジャケットからも連想されるのですが、身体の奥底にあるドロドロとした熱がドクドクと湧き上がるよう。個人的には市川さんのベースラインが大好物です。「Sundance」からの「Cyberpunk」の流れに、湧き上がる血は沸騰。そして後半「Pendulum」からの曲群にかけて、ゆっくりと血液が蒸発して靄のようになる。みたいな。


D.A.N. - Sundance (Official Video)

 

 海外だと、Dirty Projectorsの新作が「これだ!背伸びして高校生の時に『Bitte Orca』を聴いて、訳も分からず凄さに打ちのめされたのと同じ感覚だ!」と思わせてくれるものでした。バンドメンバー脱退と失恋によるDaveの内省的な面が目立ったセルフタイトル作に比べると、明るく開放的な印象を受けながらも、複雑な音作りはより進化しているような印象を受けました。前作はなぜか発売当時ハマらなくてあまり聴き込めてなかったのですが、改めて聞き直すとこちらも良く感じられてきた。決して最新作と前作を比較して述べたいわけではありませんので悪しからず。先行曲以外では、「I Feel Energy」、「I Found It In You」とかが好みです。


Dirty Projectors - Break-Thru (Official Video)

 メンバーのソロ活動を経て(Sydももちろんですが、Steve LacyのソロEPもめっちゃいいから、皆さんぜひ試聴のほどを!)再び結集したThe Internetの新作は、まさにこの酷暑に苦しめられる最近の生活の温度を冷んやりとさせ、かつ冷やし過ぎない適度な熱を保ってくれる。ファンキーで、メロウで、グルーヴィ。語彙力の無さから起因する突然の横文字連続失礼いたします。熱さが空気と地面に残って漂う夜、学校からの帰り路に聴くことが多かった一枚。「La Di Da」は特に好きな曲だったので、MVが制作されたこと、そして彼らと交流があるという水原希子さんが出演していることが嬉しいですね。「It Gets Better(With Time)」とかの緩やかな曲も良いです。


The Internet - La Di Da (Official Video)

 名前でびっくりさせられたTanukichanのアルバムは、インディ・キッズのボクにとって全体的なサウンドがドンピシャで好みでした。オークランドで活動するTrails and WaysというバンドのHannah van Loonによるソロプロジェクトとのこと。Toro y Moiがプロデュースしているんですね。そりゃあ好きだわ。「Sundays」終盤にはウルトラマンが怪獣ザンボラーと戦う場面のナレーションがサンプリングされていたりして面白い。


Tanukichan - "Natural" (audio only)

 

 あとは、ゆらゆら帝国MIDI時代の作品がサブスク解禁されて、それとともに聴き直したりしてました。『3×3×3』の轟音は全ての感情をぶっ飛ばしてくれる魔力を持つんだぜ。


【LIVE】 ゆらゆら帝国 - 発光体 (RISING SUN ROCK FESTIVAL 2000)

 少し前にリリースされたものだと、ロサンゼルス発のオルタナバンド・illuminati hotties『Kiss Yr Frenemies』のアルバムがノイジーでキュート。


(You're Better) Than Ever - OFFICIAL MUSIC VIDEO

 また、Steven  Albiniプロデュースのアルバムから待望の新曲が公開されたGEZAN。コアなサウンドに痺れる。ボーカルのマヒトさんは、幻冬舎plusで連載中のエッセイも面白く、毎回読んでいます。新作が楽しみで仕方がない。


GEZAN - NO GOD (Official Music Video)

 

 

  文芸は色々読みましたが、関連した話題ですと特に目玉だったのは芥川賞直木賞の発表でしょうか。

  今回の芥川賞候補作はどれも珠玉の作品といえるものばかりで、大いに楽しませてもらったのですが、特に感銘を受けたのは町屋良平さんの『しき』でした。

しき

しき

 

  思春期特有のなんとかしなきゃという思いに折り合いをつけようと、インターネットで偶然見た「踊ってみた」動画を真似ることに励む「かれ」こと星崎を中心に進められる四季の物語。反抗期真っ只中の弟や、学校へ行かず河原で日々を過ごす小学校の同級生つくも、共に「踊ってみた」を練習することになる転校生・草野といったクラスメイトとの交流を通じて、言葉にならない思いが形作られたり、作られなかったり、時には分からなかったりする。読んでいたら、学校という狭い世界での出来事に過ぎないのに、破茶滅茶によろこんでしまったり、この世の終わりみたいにかなしんでしまったり、でもそういったことがうまくことばにできなくてヤキモチしていた自分の思春期時代が思い起こされて、グッときてしまった。

 

  無神経な発話こそ、見過ごせない本質と響きあう。ふかく悩んでいることの発露は、日常にそぐわないかたちであらわれてしまう。だからこそ悩むのだし、だからこそ解決しない。悩んでいるときのことばは、悩んでいないときに形成されて、悩んでいないときのことばは、悩んでいるときに形成されて、その両者は行き来しない。交通できない。ぜんぜんべつのことばで考えているからこそ、悩むんだ。(P.108)

 

  星崎を中心とした登場人物はそれぞれに悩みや思いを抱えており、平仮名が多用された文体がそれらを表現していくことに抜群な効果を発揮している。また彼らに対する語りの距離感も絶妙で、今年の私的ベスト文芸間違いなしの作品でした。いま、読まれるべき青春小説でしょう。

  あと、基本的にドタバタ劇が大好きな自分は、松尾スズキさんの作品も好きです。

もう「はい」としか言えない

もう「はい」としか言えない

 

  劇作家でありながら最近はCMの仕事までくるようになった男、海馬。しかし妻に浮気がバレてしまい、許してもらうために彼女から出た条件は、「仕事場の解約」と「今後2年間、1時間おきに背景を含めた写メを送ること。忘れた場合、スマホGPS機能を妻のパソコンと共有させること」、そして「どんなことがあっても2年間毎日セックスをすること」。がんじがらめな状態となった海馬のもとに、突如世界を代表する自由人のための賞だというクレスト賞を受賞したとの報せが入り、妻の束縛から逃れたい気持ちも相まって、受賞式が行われるフランスへと、通訳の聖と向かうといった内容。序盤から束縛された海場が、自由人を表彰する賞を獲得してしまうことのギャップももちろん面白いのですが、読み進めるなかでさらにニヤニヤしてしまうが、友人の紹介で斡旋したフランス人と日本人のハーフである通訳・聖。「少し新しいタイプの人間」である彼が、飛行機のエコノミークラスの閉塞感にぶっ倒れてしまい、なぜか日本語が話せる搭乗員を介して海場とコミュニケーションをとる場面は爆笑してしまった。

  またフランスにおける移民の問題や、表現者とは何かといった問題にも触れられていて、興味深く読み進めました。単行本も購入したのですが、併録されている表題作と同じ海場が幼少期を振り返る「神様ノイローゼ」も面白かった。読みながらずっと「うわー!この気持ち、わかるー!」って言ってたわ。そして松尾スズキさん、「大人計画」30周年おめでとうございます!

  あとは村田沙耶香さんの過去作を読み返したりしました。今月は『殺人出産』。10人産んだら1人殺せるシステムとなった近未来日本の物語。村田さんの常識を転覆させる発想には毎度驚かされる。併録されている「トリプル」という作品も、恋愛が3人で行われるような世界の話だったりして、ページを捲る手が止まらない。

殺人出産 (講談社文庫)

殺人出産 (講談社文庫)

 

  そして大江健三郎を読み返したりもしています。初期〜中期手前の作品は、鬱屈した若者が描かれていることが多く、個人的に好み。ちなみにとある先生は彼を変態作家だとおっしゃってましたが、艶かしい語りを読むとその指摘に納得させられますね。

空の怪物アグイー (新潮文庫)

空の怪物アグイー (新潮文庫)

 

 

  映画に関しては、監督・石田岳龍、脚本・宮藤官九郎、原作・町田康という、この字面を見ただけで脳内が炸裂してしまいそうな『パンク侍、斬られて候』をようやく観ることができました。

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原作が持つ怒涛の語り芸が、そうきたか!っと思わせる昇華をされていて、大変面白かったです。あとは原作で一番好きな台詞がしっかりと使われていて、町蔵ファンのボクは歓喜しました。不条理な世界で行われる嘘、ハッタリ合いが、現実の奇妙さや訳の分からなさを写し出す点も良い。終盤になると綾野剛演じる掛十之進が原色のタイダイ模様みたいなものをバックにポーズを決める場面があるのですが、こちらがパンクというか、もはやサイケデリックに感じられて、そうした映像演出にもニヤけてしまいました。また前半はだらしのない若者から、後半にかけて爆発し狂っていく幕暮孫兵衛を演じた染谷将太の演技が凄え。そして茶山半郎を演じた浅野忠信は半端ない。あんなの笑ってしまうに決まっているっ!!!

 

  漫画は、今月発売されたものだと、あらゐけいいち『CITY』、沙村広明波よ聞いてくれ』の新刊が面白かったです。あらゐさんは『日常』を読んでいたときにも感じたのですが、巻が進むたびにギャグがキレキレになっていくところが大好きですね。新キャラ達も魅力的。謎の愉快な生物に囲まれながら演劇創作をする光岳が良い。頑張れ!劇団テカリダケ!えっちゃんとまつりの些細な会話劇には、ほくそ笑んでしまいます。

波よ聞いてくれ』は相変わらずの喋べくり芸でしたが、まさかの誘拐事件へ。沙村さん、他の自作とテイスト間違えていないよな……それでも次巻がどうなるか楽しみではある。

CITY(5) (モーニング KC)

CITY(5) (モーニング KC)

 

 

 

  あとは気になっていた阿部共実『月曜日の友達』、押見修造志乃ちゃんは自分の名前が言えない』、森田るい『我らコンタクティ』を読むこともできた。それぞれ素敵な作品。

  『月曜日の友達』が最も心に残っています。人と関わること、そして傷つきながら前に進んでいくこと。「痛みや恐れを超えながら道を歩んでいく」こと。そして作中を彩る「超能力」のような魔法に煌めく世界。クライマックスの「冬」が描かれた6〜8話に泣かされました。とにかく読んでほしい作品であり、自分にとっても大事な作品になりました。

月曜日の友達 2 (ビッグコミックス)

月曜日の友達 2 (ビッグコミックス)

 

 

 

我らコンタクティ (アフタヌーンコミックス)

我らコンタクティ (アフタヌーンコミックス)

 

 

  月の後半にかけては、ぼちぼちと学業面でやることをこなしながら、上記のように様々な作品に触れていました。割と余裕ができたから、沢山享受することができて嬉しい限り。

 あとフジロックの生配信に盛り上がっていました。キンキンに冷えた研究室で、勉強なんかそっちのけで配信に心躍らせている瞬間が何とも上質な快楽……

 これきっかけで好きになったアーティストもできてよかったです。イギリスのポップデュオ・Let's Eat Grandmaは可愛いし、The xxなんかをプロデュースしているDavid Wrenchだし、何よりSOPHEプロデュースの「Hot Pink」良すぎるよ……他にはYEARS & YEARSとか。


Let's Eat Grandma - Hot Pink (Official Music Video)

 あとは3日目のHINDSやAnderson.Paak、Dirty Projectors→Vampire Weekend→CHVRCHESceroを後追い視聴をした一日は最高でした。在宅でも十分楽しめたのですが、来年は何としてでも現地で楽しみたいところ。Tyler, the Creatorを呼んでほしいかな。ボクはFlower Boyなので……

 

 そして月末には歳をひとつ重ねることになりました。ちなみに同じ誕生日の有名人は、秋元梢さんや松井玲奈さんや吉木りささんや欅坂46渡邉理佐さんとか……平行世界のボクは、絶対に芸能関係で活躍する女性に違いない。しかし誕生日翌日に激しい二日酔いに苛まれ半日動けず、何とか外出するもあまりの体調の悪さに用事が終わったとたん即帰宅した無頼野郎に、そのような平行世界は存在しないわけですが。(了)