魂のダンス

書く無用人

聴界良好(11/4〜11/10の雑記)

 平日を生き延びるための食料を買い出ししている途中に、ワイヤレスイヤホンを落としてしまった。多分電池が切れてしまったために、首飾り感覚でプラプラさせていたのが原因であろう。首から落とした感覚はなかったのに。はあ。相変わらずところどころ気が抜けた状態で、日々を過ごしてしまっている。仕事では大きなミスはないものの、同僚の業務確認などで抜けが多い。全く何をやっているんだか。

 無念と倦怠の日々において、音楽やラジオを聴くことが生きがいであり、明日への活力である自分にとって、今回の紛失は大きな痛手だ。

 しかし、これを良い機会と思おう。切替大切。家電量販店へ繰り出し、手当たり次第にイヤホンを聴き比べた。片手に持ったウェットティッシュが半分乾燥するくらいには、時間をかけて探した。そんなわけで、今までよりも少し贅沢なものを購入した。

 当たり前のことではあるけれど、値が張るものには良い物が多い。とはいえ、だいたいの音響機器は、ある閾値を超えたあたりからは、違いがよくわからないのだけれども。

 イヤホンを変える前はややモコモコしていた音像も、変えた後はクリアかつ低音もしっかり出ることは素人耳にもわかり、聴くことそのものがますます楽しくなってくる。

 

 シャムキャッツの新しいEPを聴くことが楽しくて仕方がない。彼らの作品は、かれこれ長い間聴き続けている。待望の本EPは、遊び心と適度に気の抜けた雰囲気がたまらない。共同プロデュースに王舟を迎えた今作は、シャムキャッツのこれまでとこれからを内包しているように感じる。伸びるメロディとバンドサウンドはますます豊穣になっている。「我来了」のシンセサウンドとインディーロックサウンドの絶妙な混じり合いに、思わずほくそ笑む。細かなサウンドに良い意味での違和があって、そこがまた面白い。

 朝、半分目が覚めていない状態で聴くと、聴覚から内部が刺激され、徐々に体温が上がっていく。日々に寄り添うような彼らの音楽が大好きなんだと再確認する。

 ROTH BALT BARONの新作も良い。これまでは何故かがっつりとのめり込むことはなかったのだが、新作はとても良い作品だと思う。どうしてそう感じたのかは未だに言語化できないため、考え続けている。

 

 会社の上司からオススメされた小川哲『嘘と正典』も読み進めていた。言葉と歴史に実直な作品集だ。音楽を通貨とする島における珠玉の一曲、そして語り手の父に対する感情が精緻に描かれた「ムジカ・ムンダーナ」が特にお気に入りだ。

 

 ボー・バーナム『エイスグレード 世界でいちばんクールな私へ』を観た。インターネットが当たり前にあるいまの少年少女の感情の起伏が丁寧に描かれた作品だと思う。

 憧れる自分と現実の自分にギャップがあるケイラは、YouTubeへ悩んでいる誰かに向けた助言をアップロードしていく。映画を見ていくと、これは誰かへのアドバイスなんかじゃなく、自分に対する鼓舞のようなものだと判明してくる。この動画を、たくさんの人に見られたいが、閲覧数が少ないことに悩むケイラの姿が、いとおしい。そして映画の終盤、この動画はある男の子のもとへと届く。二人で会話するシーンの微笑ましさ、そして自分を無碍に扱った女の子の同級生へ一喝するシーンの爽快さ。

 ケイラの今後の生活がどうなるかが定かではないが、きっと悩み踠きながら、ちょっとずつ前へ進んでいくのだろうと思うと、こちらに力が与えられたような気がする。仕事を進めながらも、わからないことだらけで必死、うまくいってないようでくやしくてたまらない自分の心境ともリンクするようで、観ている間よりも観終わったあとに、この映画について考えている。

 

忘れない(10/27〜11/3の雑記)

 やはり一ヶ月に及ぶ期間を一回で振り返ろうとすると、大切なことまでポケットから溢れ落ちてしまう気がする。10月のある日、台風の影響で外はびゅんびゅんと風が吹くなか、家に籠もって『青春舞台2019』の再放送を観ていた。

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総文祭での演劇に青春をかける、高校生たちのドキュメンタリーだ。画面の外枠には、リアルタイムで台風の情報が流れている。しかし、映し出される高校生たちの演劇に向き合う瞬間は、数ヶ月前の出来事だけれども爛々としていた。

 屋久島高校の生徒は、これまでの島の軌跡を、実際にルーツを辿りながら演劇によって表現していく。主演を務めた男子生徒が自分の演技に悩みながらも、真摯に挑戦していく様が素晴らしかった。加えて、サポーターかつナレーターの松本穂香さんも自身が演劇部出身だったこともあり、とても気持ちが入っていて、これもまた良かった。

 グランプリとなった逗子開成高校の「ケチャップ・オブ・ザ・デッド」は、映画研究会に所属する大学生たちが山奥へ映画撮影をしに行くと、そこには一人のゾンビがいて……という筋書きだ。ゾンビが舞台から客席へ呼びかけるなど、笑いを誘う演出のなかにも、暴力/被暴力の構図が取り入れられており、非常に感心しながら観入ってしまった。最後にBillie Eilish「Bad Guy」を流すなんて、ずるいぞ君たち。もう一度高校生活をやり直せるなら、演劇(もしくは映画制作)に挑戦してみたい。

まくむすび 1 (ヤングジャンプコミックス)

まくむすび 1 (ヤングジャンプコミックス)

 

  高校演劇でいうと、ヤングジャンプで連載されている『まくむすび』も面白い。芝居を通じた青春ストーリーでありながら、うってつけの高校演劇入門でもある。継続で読み進めていくことが決定だ。

 

 こんな具合にものすごく心を動かされたのに、うっかり書きそびれてしまったことが多すぎる。ピロウズ横浜アリーナライブにはやっぱり行っておけばよかったと思ったことだったり、お酒を飲んだ後に食べる富士そば「肉骨茶そば」がギルティーなフードで最高だったりといった記憶が、叙々に叙々に薄れていく。 

人生パンク道場 (角川文庫)

人生パンク道場 (角川文庫)

 

 そんなことは寂しいことだなと考えたのは、町田康『人生パンク道場』(角川文庫)を読んだから。市井の人々の悩みに対して、妙にロジカルでありながら、時に寄り添い、時に突き放す町田氏の回答が大変面白くて読み進めていた。そのなかでも特に、文庫版最後に収録されている愛猫を失い悲しみに暮れる人への回答に、大きな感動が生まれた。

 

 忘れることによってやがてあなたの悲しみは癒えます。

 ただし忘れることによって同じ過ちを繰り返します。

 ならばどうすればよいのでしょうか。

 私は以下のように考えます。

 

 どうしたって忘れてしまうのならば、なるべく忘れないように記憶して、なるべく同じ過ちを繰り返さないようにしたらよいのではないか。(P278〜279)

 

人間はいつかは死んでしまうから、生きている間だけでも亡くなったもののことを何度も思い出したいと思う。そしていま生きているものに寂しい思いをさせないことで、亡くなったものの魂は嬉しく思うのではないかと続く文章に、ポロポロ心が滴ってしまった。そんな読書体験をしたから、こつこつと言葉を連ねていこうと思ったのです。

 

 とはいえ平日はなかなかに忙しく、週に一度あるノー残業デーの日には、家でお酒を飲んでいると、あっという間にくたばってしまうくらいに身体的負担がたまっている。研修期間は毎日定時退社だったので、帰りに映画館に寄ることができたりもしたが、最近は土日のどちらかで一本くらいしか観ることができない。

 

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 そんなわけで、ようやっとトッド・フィリップス『ジョーカー』を観た。観ている間、ずっと辛かった。弱者が排斥されるゴッサムシティにおいて、アーサーのなかに憎悪が渦巻いていく姿と、彼が救いのない方向へ進んでいくことが、辛くて辛くてたまらなかった。あんなに悲しいダンスを観たのは、はじめてかもしれない。描かれる狂気と混沌は、言葉にした途端に失われてしまうのでこれ以上は語らないが、とにかく衝撃的な映画だったことは間違いない。ホアキン・フェニックスの演技もとんでもないくらいに素晴らしかった。

 

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 かなりヘビーな体験をしてしまったので、無意識に心のバランスをとろうとしたのか、家でダラダラしているときは、Netflix宮藤官九郎11人もいる!』を観て、安らかな気持ちを得ていた。クドカン流の、家族という枠組みを肯定する美学で大変面白かった。大家族のつながりを基盤にしつつも、まともに働かない父親、一家を支えようとする長男、そして再婚した妻のもとに生まれた末っ子にしか見えない、幽霊となった元妻の交流。そのなかでもクドカン作品らしいトラブルや困難と、それを乗り越えていく過程が丁寧に描かれた秀作だ。各話終盤に流れる星野源「家族なんです」という挿入歌も毎回良い。たくさん笑って、たくさん涙ぐむ体験の素晴らしさは、中学生のころからクドカンに教わったといっても過言ではない。この作品はテレビ朝日系列で地元では放送されていなかった(とんでもない田舎出身なのです)ため、ようやく観ることができ、大変嬉しい。

 


のろしレコード(松井文、折坂悠太、夜久一)- コールドスリープ MV

 そんでもって、のろしレコードの新作アルバム『OOPTH』が、物凄く好みで通勤電車のなかで毎朝聴いていた。折坂悠太、夜久一、松井文の三人によるフォーク・ユニット。現代を流離う歌い手たちが、混じり合って共鳴することによって生まれる叙情が素晴らしくて、何度も聴く。元来田舎育ちだからか、彼らのサウンドはどこか懐かしい気分にさせてくれる。やや眠い朝の電車で、タイムスリップしてしまうような感覚に陥る。けれども一曲目の「コールドスリープ」は、少し先の未来のお話。そのズレもまた良い。そして何より曲が良い。

 


Turnover - "Still In Motion" (Official Music Video)

 帰り道には、ラジオを聴くか、ヴァージニア出身のインディーバンド・Turnoverの新作『Altogether』を聴いていた。

 

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 11月3日のレコードストアデイでは、たまの『さんだる』LPを購入した。待望のLP化で、本当に嬉しい。ストレンジポップとはまさに彼らのことで、キャッチーさと捻くれ感のバランスが最高。大好きなバンドだ。ちなみに好きになったきっかけは、子供の頃に再放送で流れていた『ちびまる子ちゃん』のEDが、彼らの「あっけにとられた時のうた」だったから。


ED4 - あっけにとられた時のうた

 

 同時に購入したアメリカ西海岸で活躍したシンガーソングライター・Tom Jansが1975年にリリースしたアルバム『The Eyes of an Only Child』も購入。ジャケットに惹かれたのだが、中身も最高にクールで大満足。


Tom Jans - Lonely Brother

 

 そんなある日、久々に会った後輩と飲み歩いていたときのこと。突然雨が土砂降りになり、こりゃあどうやって帰ろうもんかなと頭を悩ませていたところ、入った韓国料理屋さんのママが、うちにたくさんあるからと言って傘を貸してくれた。BIG LOVE。助け合いとはまさにこのこと。美味しい料理と美味しいお酒とママの優しさに、お腹と心がいっぱいになる。

 ほくほくした感情で家に帰り、傘を閉じると異変に気づく。ビニール傘の表面になんか書いてある……もう一度広げると、そこにはでかでかと「兄弟」と書かれてあった。

 うっわー。怖っー。ビニール傘に文字を書く行為もそうだが、「兄弟」っていう言葉のチョイスは謎が謎を呼び、怖っー。ついつい自分はこんな想像をしてしまった。

 そのお店に泥酔の客がやってくる。やや小太りで40歳前後の男性。中小企業の管理職で、大きな仕事を終えたあと、つい気が緩んでしまい、熱燗をしこたま飲み、例のお店にたどり着く。そこで美味しい料理と美味しいお酒をいただくものの、アルコールの作用により、味覚は正常に働いていない。けれども、何となく美味しいことはわかるから、気はますます大きくなる。マッコリ3杯とチヂミを頂いたのち、瞬時に理性が戻り、そろそろ帰らないと嫁に怒られてしまう。これはまずい。しかし、ふと外を見ると小雨が降っている。どうしたものかと困っていると、ママ登場。傘を貸してあげますよとママの鶴の一声。あまりの優しさに、男性は歓喜。本当にありがとう。今日から私たちは兄妹だ!と叫ぶものの、酔っ払っているため「兄弟」と書いてしまう。そして店の外に出た途端、傘を貸してもらったことも忘れて、帰路についたのでした。

 何を考えているんだと、ふと我に帰った自分は、また機会があればお店に行こうと、Googleで詳細を調べた。何とただお店の名前が「兄弟」だっただけでしたとさ。美味しいチヂミ食べて、そして傘返すためにも、またあのお店に行こう。

 

 

ざわめきの理解(9/30〜10/27の雑記)

   連日の飲み会、そして地元への長距離移動という物理的負担が災いして、全く調子が出ない状態から始まった10 月。そんな時は銭湯に赴き、交互浴をして身体の調子を整えていくのが良い。あっつい湯に浸かることとつっめたい水に浸かることを繰り返していくと、脳がカパっと開けた感覚になり、疲労がドバドバ外へ放出されていく。

 疲労感開放の激流とともに身体の水分も減るため、もちろんカラッカラに喉は渇く。そんな時は帰り道にコンビニへ寄って、紙パックのピルクルを買い、飲みながら歩くのも良い。肌寒い夜に火照った身体。そこに注入される甘い乳酸菌。喉に貼りつく粘度の高さは、気持ちの向上と比例する。

 そんなこんなで体調も段々と回復に向かうものの、すぐに仕事が忙しくなってきた。一日の大半職場にいると、体調の良い悪しを考える間もないまま日々が過ぎていく。あっという間に10 月も終わりになりそうだ。最近は朝の寒さで目が覚める。夜も足首の上のあたりが全然暖まらない。このままだと一気に寒くなってきそうなのに、ティーシャーツとパンツ一丁で寝るスタイルから、上下UNIQLOスウェットで寝るスタイルへと変えるくらいしか衣替えをしていない。

 そんなわけで時間が流れるのが早くて、処理が追いつかない。それは時折夜通し飲酒に明け暮れてしまって、次の日一日無駄にしてしまう日が多いからかもしれないが、それにしても早い。ただふらっと過ごすだけでは、生きていく心地がしない。全てに耳を澄ませていると電池切れで動けなくなってしまうけれども、可能な限りは周囲を照らしてみつめていたい。

 

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 そんなことを考えたのは、渋谷で開催された全感覚祭を観に行ったからかもしれない。

 全感覚祭とは、GEZANがファシリテーターとなって開催される音楽フェスティバルだ。物凄いのは何と言っても、投げ銭式で資金が集められていること。そして今年は会場で提供されるフードがフリーだということだろう。

 しかし台風の影響で、元々予定されていた千葉開催は中止となってしまった。去年住んでいた地域で大雨災害に見舞われた身としては、被害拡大を防ぐために、この判断は正しかったと思う(それにしても気候による災害が多くて、本当に気が滅入る。自分にできる支援を考えないといけない)。

 驚くべきは、わずか数日で会場を手配し、場所を渋谷へ変えての開催に変更したことだ。チーム十三月の皆さんには頭が上がらない。

 当日の夜は友人たちと渋谷へ繰り出した。予想を超える人の数。全感覚祭目当ての人も、台風明けの鬱屈を晴らしたい酔客も、ただの通りすがりも、とにかく沢山の人で溢れかえっていた。

 行列に並び、何とかクアトロに入場でき、GEZANを観る。会場を包む高揚感が心地よい。SEのあと披露された一曲目の「DNA」で、自分は全てを持っていかれてしまった。


GEZAN / DNA (Official MUSIC Video)

 

今おれがクソむかついてるのは

最低な政治家、その類じゃなくて

誰かを傷つけないと自分でいられない君

僕らは幸せになってもいいんだよ

 

 何度聴いてもこの部分で感情のメーターが揺れまくるのだが、この日の「DNA」は格別だった。言語化できない熱量と信念が溢れる歌に触発されて、自分も周囲のオーディエンスも飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ。

 この体験を感じたかったのだ。GEZANの信念に共鳴をした市井の人々が集まり、音楽を通してゆるくつながり合う。真っ赤な照明に照らされた人間の躍動を、自分は忘れることがないと思う。

 その後はまさかの「Blue Hour」や「School Of Fuck」も披露され、流れるままにモッシュピットに突入した自分。おそらくここでカンパで貰った特製のパッチを落としてしまう。ショック。だが、手拭いはちゃんと無くさないでいたから安心だ。いまは家の御守りとして、家具の上に飾ってある。

 

 その後はWWW Xへ移動して、緩やか〜に過ごすつもりが、あまりの人の多さに入場規制で入れず。一番大きいO-eastは入れたので、以後ほとんどの時間をそこで過ごした。Tohji、KID FRESINO、GEZAN(2回目)、カレーライス、折坂悠太(合奏)といった流れだった。

 Tohjiは初めて観たが、彼にしか出せない狂気のような禍々しい雰囲気がとても印象的だった。とはいえ「みんなどこからきたの?ららぽーとイオンモール?」という客席とのやり取りや、パラパラみたいなダンス、最後はキックボードに乗って退場するなど、なかなかの茶目っ気に思わずにんまりしてしまった。

 KID FRESINOも初めて観た。本当に格好いい。クールにリリックを繰り出す姿に目を奪われる。次はバンドセットでのライブも観てみたい。

 再びGEZANを観て、友人とお腹が空いたねってことで、フリーで提供されていたカレーライスを食べに行く。スタッフの人によると、GEZANのメンバーも野菜などを朝から洗って準備をしてくれたらしい。聴覚や視覚だけでなく、味覚からもエネルギーを貰えるなんて贅沢極まりない。

 最後は折坂悠太(合奏)を観た。以前弾き語りを観たときには、歌声とガットギターの響きに心を奪われた。今回の合奏では、何よりも音の豊かさに圧倒された。リハーサルの「さびしさ」から会場はざわめき、本編においても「逢引」、「夜学」、「take 13」といった楽曲でさらに引き込む。「朝顔」では、その日観た光景や日々の生活のあれこれが思い巡ってこみ上げてきて涙ぐむ深夜4時。アンコールで披露されたbutajiと共作した新曲も素晴らしかった。


折坂悠太 - 朝顔 (Official Music Video) / Yuta Orisaka - Asagao

 

 最後にWWWへ赴くも入場規制で入れず、解散。帰り道では、祭の狂騒の余韻だけでなく、渋谷で毎夜繰り返されているであろう泥酔した人々が倒れている光景が広がっていた。「こんなんだから、普段は渋谷に来たくないなぁ」とか友人と話しながらも、特に雑多な空気が包むこの日の渋谷の朝焼けに、どこか興奮していた。

 

 

 話は変わるが、全感覚祭前後に、保苅実『ラディカル・オーラル・ヒストリー オーストラリア先住民族アボリジニの歴史実践』を読んでいた。筆者は、史実とは異なると考えられてしまうアボリジニの人々の物語りに耳を傾けることを通じて、実証主義的な歴史を否定せず、また神秘主義にするのでもなく、語り手と聞き手の身体を介すことで歴史を捉える方法を探っていく。これが本当に面白くて、読み終わったあとは本が付箋だらけになっていた。人々の周囲に広がる様々な歴史を排除や包摂によって植民地化することなく、コミュニケーションの可能性を探っていく本書は、日々生活するなかで人間だけにとどまらず、森羅万象の事物に耳を傾ける行為ことの重要性を訴えかける。

 本書自体が引用や、学会での応答、友人とのやり取り、博士論文の審査など、多様な声が収められているのだが、筆者が聞き取りを行ったグリンジの長老ミック・ランギアリの一言が強く心に残っている。

 

「世界のどこからきた者であっても、共に暮らし、共に働くべきだ。これはとても困難ではある。でも少しずつお互いを理解しあってゆけばいい」(P.260)

 

 渋谷全感覚祭の夜は、様々な人で溢れていた。自分はその全てを見聞きすることはできなかった。しかし、自分が見た光景や聞いた音に注意深く介入することができた。そこから何を考え、少しずつ理解をしていくべきか、そしてどのように行動すべきか。明日を生きる糧とコンパスを得た、そんな夜だった。

 

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 また、真利子哲也監督『宮本から君へ』も生きるエネルギーをもらった作品だった。本当に最高の作品だった。原作でいう宮本が営業マンとして悪戦苦闘する日々を描いたのは、去年放送されたドラマ版だったが、映画版は恋人である靖子との出来事が中心となって描かれる。

 宮本は呆れるくらいに不器用で、実際にこんなやついたらちょっと暑苦しくて嫌かもしれないが、その懸命な生に観れば観るほど宮本が愛おしくなってくる。

 なんと言っても宮本を演じる池松壮亮と靖子を演じる蒼井優の演技が凄まじい。とある事件をきっかけに心身ともにボロボロになった二人の言い争い、そして鍋で煮た南瓜をおかずに白米に喰らいつくシーンは圧巻だ。ラストシーンで宮本が叫ぶ「生きているやつはみんな強えんだ!」の言葉は、とんでもないくらい力強くて、いまも身体に残っている。観終わったあとはドッとエネルギーをもっていかれていることに気づくが、映画館を出たあとは足元からパワーが漲ってくる。暫定今年ベスト映画だ!去年はドラマ版主題歌のエレファントカシマシ「Easy Go」が就活中のテーマソングだったが、いまは宮本浩次「Do you  remember?」が自分を奮い立たせる一曲になっている。


宮本浩次-Do you remember?

 

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 そんなわけで音楽といえばエレファントカシマシと、(Sandy)Alex G『House Of Sugar』、Big Thief『Two Hands』を繰り返し繰り返し聴く日々。どちらもレコードを手に入れることができた。


(Sandy) Alex G - Southern Sky (Official Video)


Big Thief - Forgotten Eyes (Official Audio)

 特にBIg Thiefの新作がすごい。ボーカルのエイドリアンの歌声の繊細さに耳を奪われ、時に感情を爆発するような表現に震える。そして彩る各楽器の鳴りも素晴らしい。喜びと悲しみが詰まったアルバムで、こちらも暫定今年ベストアルバムになりそう。

 


スピッツ / ありがとさん

 あとはスピッツの新作『みっけ』も聴いた。サブスクも解禁され、Twitterのタイムラインがお祭りみたいになって楽しかった。新譜は何と言っても「ありがとさん」が好きだが、「YM71D」も素晴らしい。ツアーも当選したので、ようやく生でスピッツを観れるのが今から楽しみだ。

 


電話【PV】 レミオロメン

 レミオロメンもサブスク解禁されていたことに気づいた。『朝顔』というアルバムを中学生のときによく聴いてて、特に「電話」という曲が大好きだったことを思い出した。当時は部活動の決まりで丸刈りだった。丸刈り少年が、ピロウズを中心にバンド音楽ばかり聞いてた話を会社のボスにするとまあまあ受ける。

 

 そして好きなものが復活した月でもあった。『帰ってきた時効警察』と『まだ結婚できない男』が放送開始されて嬉しさが宙に舞う。今回も毎回毎回が面白い。他には『スカーレット』、『同期のサクラ』、『G線上のあなたと私』を毎週楽しみに観ている。

 

読書実録

読書実録

 
献灯使 (講談社文庫)

献灯使 (講談社文庫)

 
雪の練習生 (新潮文庫)

雪の練習生 (新潮文庫)

 
ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

 

 

 また保坂和志『読書実録』を読んで、本の印象的な文章を書き写すことにもチャレンジし始めた。他には多和田葉子の作品を読み返したり、宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』を読んで学びそのものについて考えたりもした。

 

 最近会社の先輩と映画の話をすることが多い。おすすめされた作品は配信されているものもあれば、ないものも多いので、改めてTSUTAYAの会員となった。しかしレンタルは折角だからたくさん観ようと籠にオラオラとDVDを入れるものの、いざ家に帰ると掃除、炊事、洗濯などに追われ、毎回1作品は観ないまま返してしまう。時々どうしても家で飲みたくなって、アルコールをお供に映画鑑賞するものの、どんなに面白い作品でも完全にリラックスモードに移行した自分はつい寝落ちしてしまう。管理能力の無さを露呈するのは家だけにしたいなと思うものの、寝落ちしたとある翌日の仕事では凡ミスを連発してしまいました。あちゃちゃちゃちゃ。(了)

追い白米(9/16〜9/29までの雑記)

  ものすごく嫌になるときがある。今回は自分の不甲斐なさのせいで、嫌な気分になっている。本当にしょうもないことなので詳細をいちいち記述することはしない。しかし、しょうもないことなのに、いつまでもうじうじと悩んでしまうのが自分の性格だ。もうやるせなくてやるせない気持ちが止まらなくて、ソファーベッドで寝転がったまま動けなくなる。

 

ナナメの夕暮れ

ナナメの夕暮れ

 

 

  ふと本棚を見ると、以前買ったのにまだ読んでいなかったオードリー・若林正恭の『ナナメの夕暮れ』が、こっちを見返している気がする。読み進めていくと、生き辛さを抱えるひとりの人間・若林が、日々を楽しむ生き方を見つけていく過程が面白く、何だか自分のBAD MENTALが徐々に回復していくようだ。収録されているエッセイはどれも珠玉のものばかりだが、特に世界を肯定していくことについて述べられた「ナナメの殺し方」が良かった。

 


カネコアヤノ - ぼくら花束みたいに寄り添って

  カネコアヤノ『燦々』も、自分が前を向く後押しをしてくれた作品だ。ずっとそばに在ってほしい光のような、お守りのようなアルバムだ。フォーク調のモコモコした録音も抜群にマッチしている。何と言っても「僕ら花束みたいに寄り添って」が素晴らしい。「感動している君の目の奥に今日も宇宙がある」という詞のもつエネルギー!

 

  キングオブコントも、とても面白かった。しかし、かが屋ビスケットブラザーズGAG空気階段ゾフィーと応援していた芸人さんが誰も決勝行けなかったので、ちょっぴり悲しい。


1回戦勝ち抜きネタ 8/1(木)1位通過

  お笑いといえば、怪奇!YesどんぐりRPGM-1グランプリの一回戦をトップ通過していて、めちゃめちゃに嬉しい。それにしてもネタの進化がすごい。「射・手・座」は友だちみんなで是非真似したい。

 


思い出野郎Aチーム / 同じ夜を鳴らす 【Official Music Video】

  お笑い繋がりでいえば、思い出野郎Aチームのイベント「ULTRA FREE SOUL PICNIC」を観に行った。ニューアルバムも最高の思い出野郎の音楽、お笑いライブ、そして美味しいカレーにビールと十分に楽しんだ。雨が降りそうだったのと諸予定のため、2回目の音楽ライブのあとで離脱したのだが、その後のお笑いライブでAマッソが問題を起こしてしまったらしい。生で観ていないので何とも言えないが、目にした情報だとマズすぎる発言で残念極まりない。しかし、人間誰でも間違えてしまうもの。Aマッソのお笑いは大好きなので、これを機に反省して進化したお笑いを見せてくれることを祈っている。

 

  そしてゆっくり『時効警察』と『結婚できない男』をアマゾンプライムビデオとNetflixで見返したりもしている。新シリーズが楽しみで仕方がない。

 

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  こうして徐々に元気を取り戻していくなかで、爆裂な後押しとなったのは、お昼にたまたま入った定食屋さんで、麻婆豆腐丼になぜか普通の白米が追加でついてきたことだ。追い白米。一瞬何が起きたかわからなかったが、とりあえず全部食べた。とまあ、こんな感じで日々を過ごしていたら、些細な悩みも吹き飛んで、元気溌剌って訳です。

 

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  その次の週は贅沢貧乏『ミクスチュア』を観ることから始まった。謎の野生動物を排除しようとする住民、スポーツセンターの清掃員、ヨガに勤しむ人々。断片的な物語から浮かび上がるのは、人間性と動物性が混じり合う境界線への問いだったように感じている。観ている間は、思考が止まらなかった。特に野生生物を演じた浜田亜衣さんと有光藍さんの身体性に目が釘付けとなった。動物的な動きと身体を鍛錬し浄化するためのヨガの動きを、共に表現できることに圧倒された。

  演劇を観る面白さに気づいてきたものの、素養がさっぱりなので、最近平田オリザ『演劇入門』を読んだりもしている。

 

 

演劇入門 (講談社現代新書)

演劇入門 (講談社現代新書)

 

 

  週末は友人とレコード屋さん巡り。ものすごく楽しかった。アメリカのカントリーシンガーでイーグルスのメンバーが録音に参加のRick Roberts『Windmills』、POP GROUPの元メンバーが在籍したRip Rig + Panic『I am cold』、そしてAORの先駆けとも言われるMark Almondの78年のアルバム『Other people Rooms』を購入した。全部当たりで、家でレコード聴くことがますます楽しくなる。

  他には、久し振りに再会した大学時代の友人と飲み歩いたり、地元へ戻って高校の同級生の結婚式に出席したりした。昔からの友人と再会すると、その瞬間だけ彼らと毎日一緒にいた10年前のテンションが蘇ってくるようで驚く。その時、過去はただの過去なんかじゃなくていまこの瞬間にすべての時間が発露している。結婚式会場という特殊な空間でも、全く空気は変わらなかった。湖はやや荒れてたけど、そんなことは関係なかった。

 

みせててのひら(9/1〜9/15の雑記)

  先日健康診断に行ったところ、視力がかなり低下していた。ショックだ。最近遠くに見える看板の文字が読めなくなってきたとは感じていたが、こうも数値で示されると見えなくなったという実感が増す。見えていたものが見えなくなってしまうという、フィジカル面での衰えがこわい。

  家屋の少ない町並、見渡す限りの海と山、そして爺と婆に囲まれて生活したなかで得た抜群の視力は、都会の喧騒に耐えれるようできていなかったのだろうか。さすがに眼鏡やコンタクトレンズを買うまでは落ちていないものの、なるだけ現状の視力を維持したい。JINSZoffでPCメガネでも購入しようかと思うが、買ってしまうと単純に生活が苦しくなる。はやく安定した生活が欲しい。なぜ未だに引っ越し関連の負債に苦しめられているのか。もう9月やぞ。

 

  なかなか苦しい生活の原因を考えると、友人の結婚というめでたい行事が数件控えていることや、雀の涙の家賃補助、一度飲み出したらいつのまにか財布から札が消える性分など様々に考えられるが、結局はライブに行ったり、映画を観たり、読み切っていない本があるのに次々と買ってしまうから。でも、自分はそれがないと生きていけない。何だかうまくいっているようで、いっていないような、そんな不安定な日々の均衡をとるには、カルチャーから力をもらうほかない。

 

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  9月のはじめは、代官山UNITへblack midiの来日公演を観に行った。ライブ前の飲酒が一番好きな飲酒なのに、先に述べた健康診断前日のため、水しか飲めなくて辛い。ちっちゃいペットボトルのエヴィアンが600円とは如何。

  そんなことはともかく、ライブ自体は凄まじくて、終始口をぽかぁと開けながら観続けていた。緊張感溢れる演奏は、どこか彼らの生真面目さと変態さが現れていて、手に汗握りながら観る。そして生演奏ならではのジャムセッションは圧巻の一言。曲中ギターのジョーディーとマットがそれぞれ別のタイミングで弦が切れてしまうハプニングがあったものの、その間他のメンバーでセッションが続けられるだけでなく、弦交換さえもパフォーマンスに変えてしまう柔軟性に驚いてしまった。大好きなアルバムの曲もほとんど演奏され、嬉しい。一部楽曲で起こるモッシュピットの熱量は、あの演奏でしか起こり得ないパワーがあった。また来日して欲しい。彼らの進化をずっと追っていきたい。

  O.A.のDos Monosのライブを観るのは、今年2回目だったが、以前観たときには無かったVJをバックに、ステージを縦横無尽に駆け巡りながら言葉を繰り出す3人のパフォーマンスが格好良くてたまらなかった。VJは謎の映像や映画のワンシーンが映し出されていたが、そのなかでも石井聰亙監督の『爆裂都市』が使われていたのが印象的。彼らの楽曲を聴くときに感じるマッドな感触を、視覚からもありありと感じることができた。

 

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  その週には、渋谷WWWを中心に開催されたThe M/ALLというイベントにも足を運んだ。この面子が揃って入場料フリーとか一体どうなっているんだ。会場内には、香港のデモ運動の写真が展示されていた。遠く離れた場所で自由を手に入れるために行動を起こす同世代の姿を見て、彼らの思いにたいする想像が沸き立つ。高円寺のカレー屋・インド富士子の出店もあり、胃のコンディションもそそり立つ。

  この日はさまざまなアーティストが、それぞれの立場から発するメッセージを、受け止め続けた一日になった。色々観て回ったなかでも、やはりTHE NOVEMBERSやGEZANは本当に格好良いライブをしてくれる存在だった。

  THE NOVEMBERSのライブは、咆哮のような演奏のなかに立ち現れる耽美さがたまらない。GEZANのライブは、観る度に自分が自分でなくなってしまうくらい感情を動かされてしまう。特にマヒトさんが「生き延びるだけじゃなくて、皆が笑顔にならなければならない」という内容のMCを行ったあとは、鬼気迫る演奏だったように感じる。アンコールで披露された新曲は、彼らの優しさが詰まった一曲だった。彼らの姿勢には非常にパワフルな触発を受けているので、全感覚祭には何らかの形で参加したいと思っている。

  そして何と言ってもこの日一番記憶に残ったのは、MOMENT JOONのライブだ。日本で活動している韓国人ラッパーが放つ日本語・韓国語・英語が入り混じるリリックは、みてもいられないレイシズム、さらに大きく言えば閉塞的な状況へと進む両国間の国際的問題を、吹き飛ばしてしまうことできるほどのパワーを持ったものだった。曲中に織り込むヘイトスピーチを、ビートとリリックで糾弾していく様に惚れ惚れとする。そして彼が最後に演奏した曲は、様々な状況に苦しむひとたちの救いとなる一曲だったように思う。

 

この島のどこかで 君が手を挙げるまで

寂しくて怖いけど ずっと歌うよ

見せて手のひら

 

  彼の言葉に合わせ、観客全員が手のひらを挙げ、見せる。皆が生まれ育った環境も性別も思想も、ちょっとずつ異なっているにもかかわらず、同じ方向へ挙げられる手が、その光景がこれ以上ないくらいに美しくて。

  その後、磯部涼さんとのトークがあったのだが、満席で入れず。今回一番ショックだった出来事だ。『文藝』秋号のMOMENT JOONの自伝的小説と、磯部さんの「移民とラップ」を読み込んできたのに残念極まりない。

文藝 2019年秋季号

文藝 2019年秋季号

 

 

 

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  翌週にはけもののキーボーディストとしても活躍するトオイダイスケさんのライブにお誘いを受け、観に行った。日曜日の午後に聴くには抜群の音楽。鴇田智哉さんの俳句の朗読に合わせたパフォーマンスや、山田あずささんのヴィブラフォンとのデュオ演奏は、ここでしか聴けない体験となった。心に穏やかさが生まれてきて、帰り道は自宅からは少し離れた駅で途中下車し、散歩して帰った。

 

  それにしても9月上旬に発表された新譜には、素晴らしいものが多い。(Sandy)Alex G『House of Sugar』、Whiteney『Forever Turned Around』、People In The Box『Tabula Rasa』、Men I Trust『Oncle Jazz』、JPEGMAFIA『All My Heroes Are Cornballs』、Kindness『Something Like A War』、OGRE YOU ASSHOLE『新しい人』、lyrical school『BE KIND REWIND』、For Trancy Hyde『New Young City』、Moonchild『Little Ghost』、Frankie Cosmos『Close It Quietly』……どれも本当に素晴らしい。これでもまだ気になっているが聞けていないものがある。とんでもねぇな。中村佳穂の新曲「Rukakan Town」もとんでもねぇ。本当に音楽を聴くのが楽しいし、エネルギーを貰いまくっている日々だ。

 

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  この期間に観た映画といえば、何と言ってもクエンティン・タランティーノ監督『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が滅茶苦茶に面白かった。過去に起きた事件を、フィクションの力とその時代への尊敬と憧憬をもって、昇華していく試みに感嘆。ブラッド・ピットのクールさはもちろん、落ち目の俳優を演じたディカプリオが本当に良かった。中盤ミスを繰り返してしまう己の不甲斐なさに、楽屋で暴走する姿。その後渾身の演技をみせ、喜びに溢れる姿。一連の表情に魅力がこれでもかとスクリーンに広がる。終盤はまさかの展開となり、驚きを隠せないのだが、これはこれで自分はアリだと思った。とにかく良い映画体験になった。

   他には今泉力哉監督『退屈な日々にさようならを』を観たのだが、映画館の席に座ったとたん、体調が優れなくなってしまい、あまり集中してみることができず申し訳ない気持ちになった。中盤以降、誰かを思う気持ちが複層的に描かれる場面が印象的であったため、ソフト化後にもう一度見返す必要があるなと感じている。

 

 

いかれころ

いかれころ

 

 

 

波よ聞いてくれ(6) (アフタヌーンKC)

波よ聞いてくれ(6) (アフタヌーンKC)

 

  

夢中さ、きみに。 (ビームコミックス)

夢中さ、きみに。 (ビームコミックス)

 

 

  読んだ本は上記の通り。三国美千子『いかれころ』は、大阪のある一族にまつわる地方独特の閉塞感が、幼い少女の視点と語り手現在の視点という語りの立体感を駆使して描かれていた、魅力的な作品だった。次に三国さんがどんな小説を書くのかが気になる。あと、今更ながらカフカを読み進めているがなかなか頭に入らない。

  阿部共実『潮が巻い子が巻い』は、高校生が織りなす日常生活の煌めきが良い。登場人物がどこかこの瞬間が続かないことを察しているのもまた良い。本当に信頼できる漫画家のひとりだ。

  沙村広明波よ聞いてくれ』の最新刊を読めていなかったので、ようやく読む。相変わらずフリーダムなお喋り芸で、読んでいて楽しい。

  和山やま『夢中さ、きみに。』は、今年最も話題になる作品ではないかと思う。登場人物や彼らが考えていることが愛おしくて愛おしくて。

 

  今月頭に白米を切らしてしまったので、新たに玄米を購入した。その理由は多分、謎の身体測定にある。東京に乃木坂46のライブを観に来た先輩と、時間潰しに代々木公園を散歩したときに、フィットネスクラブのトレーナーが無料で体内年齢を測定しているので協力してくれと言われ、男二人でTANITAの体重計に乗った。何と私、体年齢が17歳らしい。これは素直に嬉しい。しかし、ほんの気持ちだけ内蔵脂肪の量が多いと言われ、ややショックだったのだろうか。それ以降炭水化物の摂取量を減らし、玄米に変えたというわけである。玄米に変えたところで、内臓脂肪が減るのかは知らんけれども、何事も雰囲気と形から入るのが大事ではないか。

  炊き始めたころはべちょべちょの玄米ご飯が出来上がってしまったが、最近は適切な水量と漬け置き時間がつかめてきて、健康玄米ライフが幕を開けた。白米も美味しいけど、玄米も独特の風味と噛み応えがあって良い。

  しかしその後『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を観た次の日、別の先輩と飲んだ際に、かなり酔ってしまった勢いと、前述の映画を観た影響で、久しぶりに自分で煙草を購入してしまった。少し臆病になって、ウィンストンの1mmだ。最近は健康志向になった、加えて習慣的な喫煙は辞めていたにもかかわらず、相変わらず意思が弱くて自分が情けない。しかも酔った際は吸えるものの、普段の生活では1mmですら、もう吸えなくなってしまった。

  台所の横には、ボックスに入った煙草がまだ十数本残っている。何だか捨てるのも勿体無くて、ずっとそこに放置してしまうのだろう。決断力が弱くてごめんな。(了)