魂のダンス

音楽、本、映画などを絡めた雑記

散歩(1/16〜1/22の雑記)

 いまさらになって、小袋成彬が昨年リリースしたアルバム『Piercing』をよく聴いている。当人が発言しているように、ピアスを空けるようなノリで製作されたという本作は、すこしの背伸びとそれに伴う肉体的な痛みが共存しているような作品だ。聴きつづけているのは、曲間のシームレス構成や12曲32分という長さなどに代表されるように、全体としての風通しが心地よいから。また多くの客演アーティストがいることもひとつの理由になるだろう。加えてほどよくあたたかい今年の冬という気候的要因も影響し、会社に行く道中で流している。

 特に「New Kids」という曲がお気に入りだ。叙情的なピアノの音色からはじまり、Kenn Igbiのラップとビートが絡み合っていく。そして「待って なんか今日が空が青くね?」と歌いはじめる小袋の歌詞は、周囲の人々から自然の描写へ、さらに「今もどこかで生まれてる」誰かへと広がっていく。その後、曲間に挿入される「たまたま入ったカレー屋がめちゃめちゃ美味しかった」という些細な会話が、日々見過ごしてしまいがちな日常のかけがえのない情感をひきたたせる。

 遠い英国の地で製作された作品で歌われていることが、現在自分が暮らしている街においても尊重すべきことにつながった、それにたいして素直な感動が生まれる。

 

 GEZANのニューアルバムから先行公開された「東京」という曲も、自分に思考と問いかけを与えてくれた。昨年観たライブでも幾度か演奏されたこの楽曲は、ひりひりとしたサウンドに日常を生きることへの切なる想いが同居していて、聴くたびに身体の内部から突き上がってくる何かがもたらされる。悲痛な現実を描く詞に呼応するように鳴る歪みと、「花を見て笑う 好きな人の顔」「君と歩く いつもの帰り道」を求める歌詞からもわかるように、すなおな心象が表現されている。この楽曲のパワーが、もっと広く広く届いていけばいいと感じている。

 

 MOMENT JOON「TENO HIRA」のミュージックビデオも公開された。抑圧されて声をあげることのできないものすべてに力を与える楽曲だ。昨年観たライブでは、この曲を聴いている皆がMOMENTに向けて、それぞれのてのひらを見せていた。その光景が今でも忘れられない。あのときその場にいたひとたちは、いまごろどこで何をしているのだろう。

 

 毎朝毎晩、行き帰りの途中や電車のなかでさまざまな人とすれ違う。自分は比較的空いている車両が何号車か察しがついているので、いつもほぼ決まった時刻の決まった電車に乗る。それでも毎日見る顔はてんでばらばらだ。その顔それぞれに固有の時間がながれている。たまたま同じ電車に乗ったというだけで、各々の時間が交錯することが不思議でしようがない。

 そんなことを考えるきっかけとなったのは、シャーウッド・アンダソンの『ワインズバーグ・オハイオ』とスチュアート・ダイベックの『シカゴ育ち』を読んでいたかもしれない。前者が1919年に出版されたオハイオ州の架空の街を舞台にした作品、後者が1990年に発表されたシカゴを舞台とした作品だ。年月は違えど、どちらの作品も街を生きる人々の生や内面をじっくりと掘り下げていく。言葉を追いながら、街とともに生きた人々の精神に触れ、彼らに愛着を抱くことができたのは何よりもうれしい。まさにクラシックといえる作品で、今後何度も読むことになりそうだ。

 

 この期間の週末は、ミツメ主宰のイベント「WWMM」(わくわくミツメまつり)に赴いた。ラインナップだけで期待の高まりはおさえきれない。

 恵比寿リキッドルームに到着して、友人とビールで乾杯。Homecomingsを観る。去年のライブ納めはHomecomingsで、今年のライブはじまりもHomecomings。なんて幸せなんだろう。地方にいたころ、あんなにもライブが観たいと切望していたのになかなかチャンスに恵まれなかった数年前の自分に「もう少し辛抱すれば、たくさん観れるよ」と伝えたい。かれらのバンドアンサンブルはライブで聴くとその力強さを実直に感じることができる。個人的にかれらの醍醐味だと感じているコーラスワークとリズム隊の安定感は、ライブだからこそより伝わるのだと思う(もちろん畳野さんのギターボーカルと福富くんのギターも最高)。

 いいっすねのきもちで、ビールをもう一杯。KATAは入れそうにないので、しばらくリキッドにいることにする。

 そして、んoonのライブを観る。これがもうとんでもないライブだった。ボーカル・Jesseさんのグルーヴィな歌声、タイトな演奏、彩りを与えるハープの音色。かれらの演奏が続けば続くほど、己の身体が熱を帯び、また周囲にも静かな熱狂が生まれているのを強く感じた。近くに居たミツメのnakayaanさんがノリにノっていたのもまた良かった。

 あまりにもんoonのライブが素晴らしかったので、次はジーマに手を出す。3種類あるなかで一番アルコールが高いもの。今日は少しだけお酒が入ったほうがいい。相変わらずKATAには入れない。

 続いてはtofubeats。実はライブを観るのははじめて。改めてtofubeatsが作る楽曲はいいものばかりだなと、横に揺れながら強く思う。ミツメ「エスパー」の8bitバージョンからの「水星」には、嬉しくて声が出る。

 SaToAも気になるところだが、もはやKATAには入れそうにないので、バーカウンターでジーマのお代わりをする。出店されていたLUKE'S LOBSTERのサンドを食す。美味かった。

 続いてはトリプルファイヤー。こちらもライブを観るのははじめてだったのだが、ボーカル吉田さんのぼやき(?)のような歌と、それを支えるムキムキの演奏が印象的で、気分は跳ねに跳ねた。新曲が多かったような気がする。もし合っていたとしたら、新作への期待が高まるライブだった。

 ダメ元でKATAに向かうと、なんと入場することができた。in the blue shirtのライブを観る。年末に作った曲を披露しますという一声からはじまったのは、ミツメ・川辺さんがゲストボーカルを務める新曲。これがin the blue shirtのエレクトロサウンドに、川辺さんの歌声が絶妙にマッチしていて、はやく正式音源を聴きたいきもちでいっぱいになる楽曲だった。余談ではあるが、このステージを見ているとき、近くにtofubeatsさんとimaiさんがいた。自分も平均よりは身長が高いため、KATAの入り口付近でデカい3人組が自然と揺れ動く壁を作っていることに気づいた。

 友人が諸用で抜ける。自分はもうお酒はいらない。

 そして主宰のミツメ。音源の洗練さを微熱で保ちつつ、ライブならでは肉体的な演奏(特にリズム隊のふたり)で素晴らしかった。「エスパー」は本当に名曲だと改めて感じる。アンコールで披露された「煙突」で、ほろ酔いの自分は白煙をあげる煙突になった。

 リキッドルームを出ると、すっかり暗くなった景色に、喫煙所から香るたばこの匂いと、ビル街に漂う肌寒い外気が入り混じっている。狭い空間から外に出るとき、都会の建物の高さを実感するのは、とりわけこの会場でライブが行われたときだ。ほくほくしたきもちで別の友人と合流し、改めて飲みに出かける。道中のサンマルクカフェのディスプレイが故障してて、チカチカ光っていた。映画とかでよくある嫌な予感の前ぶれかと思ったが、そんな因果は存在せず、その後も楽しく朝まで飲み歩いた。

 

 あとはというと、会社の先輩に「taichiくんは絶対に『男はつらいよ』シリーズが好きだから観たほうがいい」と言われたのをきっかけに、Netflixで寅さんを見ることに夢中になっている。そして最近友人の間でハマっている率が高いハロプロにも、ようやく理解が追いついたかもしれない。特にJuice=JuiceとアンジュルムをよくYoutubeの公式チャンネルを通じて鑑賞している。アンジュルム佐々木莉佳子さんと上國料萌衣さんに目をひかれる。ハロコンというものにも一度足を運んでみたいものだ。

整調(1/6〜1/15の雑記)

 週に一度は銭湯に行って、心身をととのえる。いつものように交互浴を存分に楽しんでいると、どこからか芳ばしいにおいがする。だれかが焼肉かなにかを食べてから銭湯に来たのかしら。火照ってぼんやりする頭は、そんな当たり前のことしか考えることができない。

 ぼやけた脳をしゃきっとさせるために水風呂へ向かう途中、自分の目に入ったのは身体を洗うおじさんと、その横にある「おろしにんにく」と書かれた謎のボトルだった。

 このにおいだったのか、さっきから続く芳ばしいやつは。それにしても何故風呂場に「おろしにんにく」ボトルを持ってきているのだろうか。身体に塗るのか。いや、そんな滋養強壮荒治療をしてしまえば、栄養の供給過多ではないのか。というよりも「おろしにんにく」のにおいの強さに自らの鼻腔は麻痺し、遂には自宅の冷蔵庫の食材が腐ってしまうことにも気がつかなくなる危険性があるぞ、おっさん。それか食すのか。いやいや、銭湯で「おろしにんにく」なんか食すな、家で食え、家で。

 せっけんの香りにまじる「おろしにんにく」のにおいは浴場を漂う。身体は整うものの、どうしようもない考え事をしていたために、頭脳はずぅんとしてしまった。おじさんに「おろしにんにく」の用途を聞くには、勇気がたりない、自分はまだ生まれてくるのがはやかった。

 

 そんな2020年のはじまり、公私の目標のひとつは「心身のケア」なので、今後にんにくの恐怖に怯えながらも、近所の銭湯に通うだろう。私の面では、さっそく色々なものを見聞きして、感覚を整えているのだ。

 

 去年の末、Homecomingsのライブで京都アニメーションに対する思いが語られていたことから、これまで観ていなかった『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』をNetflixでゆっくりと追う。手紙の代筆を行う職業に「自動手記人形」というネーミングがなされていることや、その職業に就くのが女性ばかりということに(19世紀ヨーロッパのような雰囲気、かつ戦後という舞台設定のため仕方がないと思いながら)すこし引っかかりを感じるものの、京都アニメーションでしか成し得ない映像美に引き込まれていく。何と言っても、言葉にできない本当の気持ちを言葉にしていこうとする過程の葛藤が丁寧に描かれていて、とても良いアニメーションだった。回を重ねるごとに、心と言葉の関係は密接になっていき、その摩擦とともにこちらの感情も揺さぶられる。終盤にかけて自分はどんどん涙目になって観ていた。春に公開される映画も絶対に観ようと思う。

 

 ようやく読めた羽海野チカ3月のライオン』の最新15巻の熱量にも感銘を受けた。道を極めていく過程における不安や葛藤、そしてそれらと向き合うパワーを与える周囲の人々への愛情が、登場人物たちの言葉や表情を通して描かれる。桐山が悩みながらも前に進んでいく姿ももちろんだが、今巻は野火止あづさの思弁癖と愚直さが愛おしくてたまらない。作中でもかなり好きな登場人物になった。

 

 ずっと原作を読んでいた大童澄瞳『映像研には手を出すな!』もついにアニメ化。原作における作中現実とアニメーションの世界が融和していくマジックリアリズム的手法がこの作品の醍醐味のひとつだと考えているが、実際にアニメーションになることによって、その魅力が倍増したように感じる。観ていてわくわくが止まらなくなるアニメーションで、それこそ作中でも言及され、自分も幼少期にみた『未来少年コナン』やジブリ作品のようだ。映像研の3人が楽しそうに動いている姿が素晴らしくて、毎週日曜夜の楽しみとなっている。

 

 アニメーションの動きといえば、大橋裕之『音楽』の映画もエネルギーに溢れていて、非常に面白かった。原作のユーモアは映像ならではの間で倍増し、音楽を演奏する衝動はロトスコープの手法で描かれた画と色彩でみごとに表現されていたように思う。坂本慎太郎の虚脱感ある声も研二のキャラクターや作品内容に抜群にマッチしていた。演奏メンバーもスカート澤部さんや小林うてな、オシリペンペンズなど、大好きな方々ばかりで、

作品をさらに好きになる要因になった。

 

 ポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』も観た。紛う方なき傑作。格差と貧困という大きな問題を、ユーモアを内包しつつ、上下行き来するカメラワークや雨など表象でみごとに描いている。

 それにしても観賞後ずっと考えてしまうのは、作中のキム一家、パク一家、そして家政婦のムングァン、みながより良く生きようとしていた結果、最終的にはだれも救われなかったということだ。もちろんそれぞれに惨虐な一面がある。キム一家はパク一家のシンプルさにつけいる。その一方、パク一家はキム・ギテクの臭いに不快感を抱く。そして大雨で貧困層の人間が困難な状況に陥るなか、自分たちは翌日何事も気にせず息子の誕生日パーティーを計画するような、無意識下の蔑視がある。そしてムングァンが夫を助けようとした場面では、キム一家の秘密を握ったとたん、彼女の態度は一変する。

 なぜ登場人物の思考の筋道が生まれてしまうのだろうかと考えると、全世界でもはや普遍的であるような社会構造の大きな問題に突き当たってしまう。その恐ろしさたるや、観賞後は身体にボディブローをくらったかのようなダメージを受けた。大問題作にして、(もう一度言うが)大傑作。これを観て、日々思考を止めてはいけないと身に染みて感じるようになる。

 

 とは言えやはり人間にはだれかを思いやる力が実存するとつよく感じたのは、『M−1 アナザーストーリー』を観たからだ。映し出されたミルクボーイを支える人々の情の厚さたるや! 内海さんの髪を2年間無償で切り続けた床屋のおっちゃん、駒場さんの決勝での活躍を当人よりも喜ぶ家族の姿。まさに「あつい」ドキュメンタリーで、鑑賞中はめちゃくちゃに泣いてしまった。

 

 最近は、GOMES THE HITMAN『memori』が素晴らしくてずうっと聴いている。成熟したギターポップのきらめきにあふれている。「魔法があれば」が特にお気に入り。

 NegiccoのKaedeさんのソロアルバム『今の私は変わり続けてあの頃の私でいられてる。』も良い。台湾のアーティスト・蘇偉安(EVERFOR)が提供した「微弱的流動」のギターの鳴りにうなる。

 また2019年にリリースされたにもかかわらず、何で聴いていなかったのだと本当に後悔したのが、辻林美穂の『Ombre』。特に「横顔(feat.黒澤鷹輔)」は、魔法がかけられた珠玉のポップスだと思う。

 

 今年の冬はあまり寒くないにもかかわらず、以前よりも朝起きれなくなってきた。夜遅くに帰ってきて、そのままだらだらと過ごすことがものすごく悔しくて、本当にしたい活動に注力しているからなのだろうか。こうして夜が過ぎていく。できれば1秒も無駄にしたくはないものの、たまには何もせず天井をみているだけのような、そんな時間が誰にでも1時間だけ与えられていればいいのにと思う。

 

これから(12/9〜1/5の雑記)

 久しぶりに歯医者に行った。住んでいる地域では特定の年齢が無料歯科検診を受けることができ、本年いっぱいが受診締切だったので年の瀬駆け込み。それにしても以前歯医者へ行ったのはいつなのか全然覚えていないくらい、長い期間行ってなかった。

 そのため歯科衛生が最悪だったらどうしようか不安を抱えて診断に向かったものの、特に異常はなく安心した。しかし下顎の親不知がみごとなまでに横に生えていて、歯科医師さんといっしょに爆笑してしまった。ちかいうちにぬきます。

 思えば歯医者は小さい頃から嫌いじゃない。嗽をする際に含む水の無機質な金属の味、勝手に水が注がれる歯医者でしか見ないあの機械、歯間の石を取り除くとがった耳掻きみたいな器具、口内という極私的な身体をおおらかにひろげることが許される空間そのもの。あの場でしかゆるされないなにかがあって、そこに身を委ねれることになぜだか安心する。

 とはいえじょじょに年を重ねてきているせいか、歯科医と歯科助手の前で間抜け顔を披露することにやや恥ずかしさを感じる。歯の中だけを見ているだろうに、こちらは鼻の中までも見られているようで、まずい髪の毛も太いけど鼻毛も太いぞこいつと思われているかもしれない、などと余計な事ばかりが頭に浮かぶ。帰りにドラッグストアで鼻毛を抜く薬剤を購入してしまった。

 

 口内の健康状態は特にかわりなかったのだが、2019年は自分を取り巻く環境面で色々な変化があったように思う。自分が変わっていくことに抵抗はないのだけれど、身体と精神は時折地盤が崩れたように弱さを露呈してしまう。その地固めをするように、そしてさまざまなスタートの〆くくりをするように、12月はいろいろなところへ行って、いろいろなものを見聴きした。そうすることで何とか生活をつづけることができたように思う。

 

 まずは念願のスピッツのライブへ。はじめての新横浜。まわりは整然としている都市感。

 スピッツのライブ本編を観て、ほんとうにスピッツは実存するんだ、というすこやかな感動に満ち満ちた。

 草野さんの年齢を感じさせないのびやかな歌声、テツヤさんのギターアルペジオの繊細さ、そして田村さんと崎山さんというリズム隊のすさまじいパワー!過去曲もたくさん披露してくれてライブ中は体幹にうれしさがみなぎる。新譜ではやはり「ありがとさん」が大好きなのだが、この曲のアウトロは永続的に演奏してもらいたいという心持ちになる。一緒に観に行った友人と、こちらこそありがとうさんというきもちになるよね、などと話しながら、横浜アリーナのゆるやかな熱狂を反芻して帰路に着いた。

 

 その次の週はスカート企画「Town Feeling」へ行った。新代田も初めて行ったが、本当に住宅街なのだなという光景が広がる。友だちを待つ時間に行った喫茶店の珈琲が美味しかった。

 トップバッターのどついたるねんのやんちゃさに熱があがる。ギターを昆虫キッズの冷牟田さんが演奏していて、こんなことあるのかよというきもちになる。途中に澤部さんがサックスで参加したり、なぜかお笑い芸人のですよ。が「あーいとぅいませーん」を言うためだけに参加したりと、この場所この時間でしか観ることのできない瞬間がたくさんだった。

 そして柴田聡子 inFIREのライブ! 今年は柴田さんの『がんばれ!メロディー』に支えられたと言っても過言ではなく、念願のライブを本年中に観ることができてうれしい。「後悔」からはじまる待ちに待ったバンドアンサンブルの熱量にわくわくがとまらない。マライア・キャリーの「All I Want for Christmas Is You」カバーも演奏され、自分にとってすてきなクリスマスプレゼントとなった。それにしてもライブで聴く「涙」はその名曲っぷりを加速させるような演奏で感動。「ワンコロメーター」のライブアレンジも「スタジアムロックのようなリフ」(スカート・澤部さん談)が原曲の奇天烈さにさらなる筋力増量といった感じで最高。

 スカートのライブも久しぶりに観ることができた。スカートもライブならではの熱量を演出することのできる素晴らしいバンドだ。「さかさまとガラクタ」はだいすきな曲で演奏してくれてうれしい。「トワイライト」はやはり名曲。音響調整のために弾き語り披露されたチャゲアス「SAY YES」も最高だった。アンコールでは柴田さんもコーラス参加し、「ストーリー」と「ストーリーテラーになりたい」を披露。まさにスペシャルな夜。

 

 ライブ納めはだいすきなHomecomings。開演前にサヌキナオヤさんの展示も観ることができた。今回の「PET MILK」のフライヤーデザインは、一枚の絵から多様に広がるものがたりがあって、過去一番に好きなものだ。まだ買えていなかった『CONFUSED‼︎』にサヌキさんのサインをいただくこともでき、ライブ開演前から気分の昂揚が天井知らず。

 そしてライブ本編。もともと特設サイトの福富さんの文章を読んでいたのもあり、一曲目に演奏された「songbirds」を聴いているうち、京都アニメーションを襲った事件にたいするホムカミのみなさんの思いが痛いほど伝わってきて、涙が出てきてしまった。この日しかみることのできないアコースティックセットや、久しぶりに復活したPavementオマージュの照明など、かれらの節目となるような素晴らしいライブだった。MCでもしばしば語られていたように、やさしさと祈りにあふれた楽曲とそれらを十二分に表現する演奏で、ライブ納めがかれらのライブで本当によかったと思う。

 

 ほかにも『お金本』(左右社)刊行イベントの穂村弘さんと町田康さんのトークイベントにも行くことができた。各々が挙げる気になった文豪のお金にまつわる文章やその考察がおもしろい。萩原朔太郎の嫌味ったらしい切れ方とかは電車内で読んで笑ってしまった箇所だったので、タイムリー。またお金にまつわるながれで町田さんが未来はお金(で安心を得る)、過去は物語(で意味をあたえる)、そして現在はだれも所有していないものでそこを我々が生きているというお話などがたいへん興味深かった。直接お二方とお話することもできてうれしい。両者とも非常にロジカルに、かつゆったりと思考しながらお話している姿が印象的で、尊敬する人物の影響を露骨に受けやすい自分が最近真似ているのはここだけの話。

 

 そしてなんといってもM−1グランプリがおもしろかった。全組笑ったというと嘘になるが、今年は本当におもしろかった。

 敗者復活戦では成熟したヌーヴォーロマンのような漫才を披露した天竺鼠や、演技力抜群のラランド、もはや愛おしさがます錦鯉など、こちらも目が離せなかった。

 本線では、惜しくも最終決戦にすすめなかったオズワルドと、進出したミルクボーイ、かまいたち、ぺこぱがお気に入りだ。特にぺこぱはボケとノリツッコまないボケの応酬がすばらしい。かれらの漫才は何回も見てしまって、年末年始友人たちと集合写真を撮るとき、自分はほとんどしゅーぺいさんのポーズを真似ている。

 

 そうそう、久しぶりに帰省というものをして、友人たちと楽しい時間を過ごすこともできた。年末年始の期間に出会った皆がそれぞれ生活面でさまざまな変化はあるようだけれども、根幹の部分はかわらず素敵なままで本当に安心するし、かれらといまも交流が続いていることがしあわせなことだと切に思う。

 とある友人が写真を撮るとき、「はいちーず」じゃなくて「世界最大のクジラは〜?」とか言い出したのにもかかわらず、その場にいた全員が「シロナガスクジラ〜」と即答したのには爆笑してしまった。またあつまりたいね。

 

 実家でだらだらと本を読んだり、テレビをながめたりもして、本日東京に帰ってきた。帰路の間、あまりはなれていく実感はなかったけれど、スーツケースの衣服から実家の洗剤のにおいが漂ってきて、一瞬空間が妙な錯覚を起こす。はなれる瞬間には特になにも思わなかったのに、においで実家を感じることになるとは思わなかった。きっと一度洗濯をしてしまうとこのにおいも消えてしまって、衣服から東京に適応していくのだろうか。こちとらまだまだ実家でゆっくりしたかったのに。

 

 とはいえ日々はつづく。明日から仕事が始まって、たぶんじょじょに忙しくなるのだろう。2020年はひそかに野望があって、こうした日記のようで日記でないものを定期的に更新することと、観たもの聴いたものに関する書き物を頻繁に更新すること、そしてなにか自分の手でも作品のようなものを作れたらよいなともおもっている。本年も健康第一でやっていきましょう。よろしくお願いします。

2019年ベストアルバム20枚

 もともとは音楽を聴いた感想とかを更新していければよいなと考えて始めたこのブログも、いつの間にかちいさな日常を気の向いたときに書き殴るノートみたいになってしまった。これには理由があって、自分は専門的に音楽をやってもいなかったので知識はないし、細かいリスニング術を体得していないから音楽について語り口を持っていないんじゃないかと思ったり、むしろ自分よりもはるかに音楽に詳しくて愛が溢れる人たちの言葉を読むほうが楽しいんじゃないかと思ったから。

 それでも何とか記録にして残しておきたい。やはり自分の生活のそばには常に音楽があったのだ。今年から新生活が始まって慣れない日々に四苦八苦、最近は平日も帰る時間が遅くなり好きなことに費やすことのできる時間が相当減ってきて正直つらい。けれども新しくリリースされた新作にワクワクすること、サブスクやレコードを通じて過去の素敵な音楽に心躍らせること、そしてたくさんのライブを生で観れたことによって、何とか2019年も生き延びることができたのだと思う。半分記録で半分挑戦。今年リリースのよく聴いたアルバムを20枚選びました。加えて述べるのであれば、最近は順位付けをすることに疑問を抱く思いがややあって、今年は思いついたままに、とは言いつつ最初と最後に取り上げる作品は決まっているのだが、書き連ねていこうと思う。

 

※以下順不同

 

柴田聡子『がんばれ!メロディー』

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 今年は何と言っても柴田聡子さんの最新アルバムをずっと聴いていた。上京して初めて観たライブも柴田さんのインストアライブだ。

 跳ねるような柴田さんの歌声と、呼応しながらハミングするように響く遊び心あふれる楽器のアンサンブル。「結婚しました」の「流れる雲を〜」以降の展開や「涙」のサビ前のまどろみ、「ラッキーカラー」は終盤に明らかになるところなど、特に楽曲の構成が自分は大好き。そして何よりも歌詞の絶妙な言葉選び。日々のふとしたときに感じる感情のゆれ動き、出来事、景色それぞれが、折々の色を成して聞き手の想像を刺激する。聴けば聴くほどそのときに感じることが変わっていく何とも不思議、けれどもずっと大切になるであろう一枚。

 

スカート『トワイライト』

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 そんな柴田聡子さんのバンドセットである柴田聡子 inFIREのライブを観たのは、スカートの企画ライブだった。ライブを観ながら、スカートの新作もよく聴いた1年だったと再認識する。日常の一瞬一瞬にきらめきを見出すNICE POP。バンド感は増し、澤部さんとメンバーのこれまでとこれからがつまったアルバムだ。「遠い春」にストリングスアレンジは抜群に合う。表題曲の「トワイライト」は彼らの新しい代表曲になる1曲だと思う。夕暮れはわたしたちを等しく染めないからこそ響くのだ。『メタモルフォーゼの縁側』で知られる鶴谷香央理さん作のジャケットもすばらしい。柴田聡子さんの新作と並んで、はやくLP化して欲しいアルバムだ。

 

Hovvdy『Heavy Lifter』

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 絶対にLPで聴いたら抜群であろうに、まだ入手できていないのはテキサスのポップデュオHovvdyのサードアルバム。全体としてローファイ感が哀愁漂うメロディを引き立てつつ、「Mr.Ree」や「Ruin(My Ride)」などの打ち込みを導入した楽曲により、作品全体の強度が増しているように思う。夜帰宅した後、部屋でゆったり流すのがベストでしょう。

 

Whitney『Forever Turned Around』

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 シカゴのインディーフォークデュオの彼らによるセカンドアルバムも非常に良かった。ファルセットの効いた歌声、もこもことした録音の相乗効果で、聴いている自分がいま住んでいる都会の喧騒が、一瞬で草原の朝の景色へと変わるような印象を受ける。各楽器の音色が極上の豊穣を演出する「Before I Know It」が流れた瞬間、これは年間ベストアルバムに強く推したいと決心したのだ。1stはそんなにハマらなかったのに、本作は何度も何度も繰り返し聴いている。

 

Matt Maltese『Krystal』

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 さて、ここまでの流れにのってしばらくは「家でひとり聴くことで感情が渦巻いちゃう」シリーズが続きます。こちらはサウスロンドンのシンガーソングライターによるセカンドアルバム。Matt自身がベッドルームスタジオで録音を行ったという本作は、やるせないぼくたちに響くせつないスウィートポップソング集。1曲目の「Rom−com Gone Wrong」でピアノが鳴った瞬間、おれは泣く。「Tokyo」という曲があるくらいだから、来日公演も切に観たい。

 

SOAK『Grim Town』

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 おれは泣くというと、北アイルランドのシンガーソングライターによるセカンドアルバムもそんな作品だ。どんだけ泣くんだおれは。バンドサウンドからエレクトロサウンドまで柔軟に包括しつつ、彼女の声でしか成しえない楽曲群が揃っている。本作を聴くとどんな困難でも乗り越えていけそうな力を感じるのだ。「I  Was Blue,Technicolor Too」からの「Deja Vu」、「Scrapyard」の流れには彼女のすばらしさが見事に表現されていて最高だと思うので、たくさんのひとに聴いてほしい。

 

(Sandy)Alex G『House of Sugar』

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 そして何と言っても(Sandy)Alex Gのレコードを家で聴くことが本当に多かった。甘さからよどみまで、この1枚のなかに封じ込められている。すっと身体に入ってきそうでありながら、「Near」や「Project 2」といった楽曲に覚える(良い意味での)ひっかかりが、作品の奥深さを増幅させる。まさに珠玉のローファイフォークサウンド。特に「Southern Sky」とボーナストラック「Sugarhouse」は、とんでもないものを生み出してくれたな……という感想に尽きる。

 

girlpool『What Chaos Is Imaginary』

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 ロサンゼルスのデュオであるgirlpool「Swamp and Bay」という楽曲も、感銘という一言では足りないくらい愛が湧いて出る。Tuckerによる低めの歌声と切なさを音で具現化したようなギターソロに、聴いているこちらの感情はぐちゃぐちゃになってしまう、そのくらいエモーショナル。もちろんこの楽曲だけでなく、アルバム全曲が懸命さをもってこちらに迫りくる大傑作のサードアルバム。

 

Vampire Weekend『Father of the Bride』

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 移動範囲内に新しい発見ができるお店がたくさんあるので、上述のようにこれまでしっかり聴く機会がなかったアーティストにどっぷりとハマることも多かった。しかし長年聴いてきたものの良さに改めて気づく年でもあったように感じる。Vampire Weekendの新作は、内向的な前作も素晴らしかったが、牧歌的?という形容が正しいかはわからないものの、グッドメロディ・グッドサウンドのきらめき。彼らのことがずっとだいすきでよかったと思う。HAIMのDaniel Haimや、The InternetのSteve Lacyのゲスト参加も嬉しい。

 

Deerhunter『Why Hasn't Everything Already Disappeared?』

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 そしてDeerhunterの8枚目となるアルバムも、長いキャリアを経たからこそ出せる成熟といびつが抜群に良くて、1年を通してよく聴いた。楽器の鳴り方がすごく不思議で、これは2019年にリリースされた作品なのか、それとも50年前くらいの作品なのか、はたまた未来からやってきた音なのかさっぱりわからなくなるのが魅力なのだと思う。

 

Britany Haword『Jaime』

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 1曲目「History Repeats」のドラムが鳴った瞬間、思考が停止するくらいの衝撃を受けたAlabama Shakesのボーカルによるソロアルバムを今年のベストアルバムに選出しない理由はない。どうやったらこんな曲たちを作れるんだよ……誰もが圧倒されるパワーに満ち満ちた大傑作。

 

ミツメ『Ghosts』

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 去年リリースされた「エスパー」の期待通り、ずっとだいすきなミツメの新作は非常に良かった。浮遊感と生々しさが同居する傑作。冒頭の「ディレイ」では、甘美なメロディーを包む各楽器のアンサンブル、また中盤以降のノイジーなギターからも前述の特徴があらわれている。謎の飛行体Xの不時着と再飛行を傍観する視点の歌詞の不穏さと、美しいサウンドの絡み合いが素晴らしい「エックス」が、個人的ハイライト。

 

のろしレコード『OOPTH』

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 ミツメが登場したというわけで、ここからは気に入った日本の作品をつらつら挙げていきます。松井文、折坂悠太、夜久一によるフォークユニットの新作がものすごく良かった。「コールドスリープ」の詞は小さな部屋から広がるSFのような一曲。やさしい音像が詞世界を包み込み、聴くこちらの想像力を刺激する。「コールドスリープ」の詞からも明確で、このアルバムを聴くとここではないどこかへ連れて行ってくれるような気がする。バンドサウンドはフォークを基調としながらも、異国のエッセンスを混交的に取り入れているからなのか。まさに「豊か」という形容がぴったりの作品だ。

 

ROTH BART BARON『けものたちの名前』

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 そしてROTH BART BARONにようやくハマりました。こちらは聴いている最中、絵本や童話の世界に入り込んでいくようなきもちになる。「春の嵐」はメロディーとコーラス、各楽器の演奏が抜群、構成もドラマチックで本当の本当に良い曲だ。いま一番ライブが観たいバンド。

 

カネコアヤノ『燦々』

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 カネコアヤノさんはいつの間にか全くチケットが取れなくなり、ちょっぴり寂しくもあるのだが、その理由も納得、一年ぶりとなるアルバムは誰かの後押しとなるような祈りが強く込められた作品。本作のおかげで、自分も前を向く後押しになった。フォーキーで温かみを残したような録音も抜群に効いている。そして詞も以前にも増して、日々を暮らす人々のお守りとなるように宛先がはっきりしている印象を受ける。「感動している君の目の奥に今日も宇宙がある」という言葉のひろがりは、彼女にしか生み出せないやさしいパンチライン

 

NOT WONK『Dawn the valley』

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  同世代が強い意志と行動力をもって活動していると、こちらも居てもたってもいられなくなってくるのだが、それを体現化したのがNOT WONKのサードアルバムだ。多くの曲が1曲のなかで多様な展開をみせ、ロックもパンクもソウルもR&Bも縦横無尽に昇華されている。もちろんライブもすばらしくて、「Of Reality」の生演奏でしか生み出せないタメや呼吸の阿吽などは半端ではない。聴いているこちらの内部から新しい衝動を生み出す力を持つ圧倒的な作品。

 

black midi『Schlagenheim』

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 怪物。予想がつかないスリリングな曲展開に、卓越した演奏技術、これを聴いてブチがらないわけにはいかない。楽曲構成面で感じるロジカルさと、ライブでの即興演奏を観たからこそより強く感じるフィジカルさが、絶妙な塩梅で爆発しているダークスター。

 

Dos Monos『Dos City』

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 black midiのライブでもオープニングアクトを務めた彼らのデビューアルバム。そして今回挙げる唯一のヒップホップアルバム(タイラーや舐達磨、Tohjiとかも聴いていたけれど泣く泣く紹介できない)。混沌としたサウンドメイクに、知性と言語遊戯に富んだリリックがすばらしい。「マフィン」のサウンドと三人のバースは、先の特徴をみごとにあらわしたものだと思う。ライブの際、VJで石井聰亙『爆裂都市』の映像が使われていたことで、そのカオス感とマッド感に少し納得がいったのと同時に自分が好きなきもちがはっきりとしました。

 

Big Thief『U.F.O.F』

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Big Thief『Two Hands』

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 そして最後に、なんと言っても今年は自分にとってBig Thiefの年だったと思う。「天」と「地」というふたつの大きなテーマがあるらしいが、自分は特に人間の背反性、両義性が、うつくしいバンドサウンドで表現されていると感じた。まさに大傑作。「Jenni」のギターの鳴りには感情の動きが増幅される。「Shoulders」のどうしようもなくかなしい歌詞に、Adrianne Lenkerの歌声とメンバーの演奏が共鳴して、これ以上にないほど迫ってくる。個人的には『Two Hands』の方が好みだけど、これは二作品あるからこそ良さはなおのこと引き立つと考えたので、どちらも選出しました。

 

 ちなみにBig Thiefを二枚選出したために、泣く泣く漏れた21枚目はTHE NOVEMBERS『ANGELS』です。

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 というわけで、以上が今年のベストアルバム20+1です。こうしてみるとやっぱり自分はインディー(・ポップ、ロック、フォーク)が好きなのだなと改めて実感する。来年は「作品とより向き合う」、「現在と過去のどちらにも均しい熱量を捧げる」を心に抱いて、音楽だけでなくすべての創作物にこのマインドでふれていこうと思う。

 

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疲労・思考・夜の寂寥(11/11〜12/8の雑記)

 引っ越してから早くも半年になるのだが、お湯が出なくなった。なにゆえ。この問題は単純に困るので、契約しているサポートサービスを利用して修理屋さんを呼んだ。しかし、予定時間を過ぎても来ない。突然電話がかかってきて、修理屋さん曰く「道に迷ってしまいまして」。なかなかお茶目な人だなと思いながら道案内し家に出迎えると、空気階段の水川かたまりさんのトゲをなくして化粧水で浸したようなおにーちゃんだった。そんなおにーちゃんによれば、単純にガス給湯器の寿命らしい。かんべんしてくれ。

 この時期に水シャワーを浴びるのはまあまあ過酷な修行であるので、数日間は銭湯に通った。帰り道、暖まった身体から息を吐くと白かった。上京してからの冬がついに始まった感じがする。行き道の公園のベンチでスマホをいじっていた女の子も、帰り道ではいなくなっていた。寒かったのかしら。

 

 最近は平日が忙しくなってきて、手帳に付けている日記も白紙が目立つ。職場では「自分はなんでできないのか」とか「なんでこんなことしなければならないのか」と「ここはおもしろいから時間をかけたいけどそうはいかない」とか、脳内の様々な自分が群雄割拠で思考合戦を繰り広げているので、オーバーヒート寸前。というかオーバーヒートした。この期間はぼろぼろで、しょうもないミスもしてしまうため、完全に停滞夜の連続だった。

 

 幸いなことに、最近は休日に人と会う予定が多く、そこでエネルギーを貰っている。友人の結婚式、久しぶりの再会、友人が東京にやってきて泊まりに来る、誘ってもらったイベントに行く、街をぶらぶらなど、そんな余暇を過ごすうちに、精神がほぐれる。特別なものだと、荻窪の本屋さんTitleで開催されていた短詩系ユニットgucaの展示「句の景色」を観に行った。言葉、特に俳句や短歌の言葉と、視覚としての言葉(文字?)をどのように交錯させて「見せる」かが非常に刺激的で面白かった。また、写真家の植本一子さんにお会いすることもできた。新しい写真集に写されるそれぞれの人生に実直な感涙をした。

 やはり孤独な時間も大切だけど、誰かと一緒に過ごす時間も大好きだ。話すうちに友人の一面に安心したり驚かされたり、反射する自分を新たに認識できるのも良い。なんだかだいじょうぶな気がしてくる。

 

 自分と主人公がはじめての上京だからか、中川龍太郎『わたしは光をにぎっている』はたいへん興味深く観れて面白かった。人と街の生命が、瞬間瞬間に芽生える生命力のようなものが、遠巻きのカットと少ない台詞で抜群に描かれていた。静かだけど力強かった。

 

 最近リリースされた音楽だとロンドンのシンガーソングライター・Matt Maltese『KRYSTAL』も静かで力強い作品だ。ひとり夜に聞くのがよい。ほかの新作はKIRINJIやSPANK HAPPYを聞くことが多くて、あとはちょっと前のインディ・フォークやAOR、ソウルばかり聞いていた。いわゆるdigることの面白味は、一緒にレコード屋を巡る友人の影響が大きい。

 

 伊藤亜紗『記憶する身体』、ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引書』、エトガル・ケレット『銀河の果ての落とし穴』、『文藝別冊 川上未映子』を読んだりしていた。どれもたいへんおもしろい。

 この流れで改めて川上未映子さんの作品を読み返したりもする。自分がグッと惹きつけられるのは、読んでいるうちに言葉の思考の断片のようなものが次次とあふれるような本なのかもしれないと、川上さんの作品を読んで思う。

 

 あいかわらず平日はくたくたで終わることが多くて、帰る時間も遅くなってきたが、ただゴロゴロと過ごしてしまうだけでこのまま一日をシャットダウンしてしまうことがなんとも寂しくて、こうして会った人、観たもの、読んだものの影響を強く受けながら、勢いよく文章を生成していった。もうすぐ年が変わる、年間ベストリストとかも作りたいし、そろそろ自分の好きの輪郭を明瞭にしていこう。